ニュルンベルクに到着したマックス。 (C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

1945年5月8日、ドイツからの降伏文書に連合国側が署名し欧州での第二次世界大戦は終結した。ナチスがドイツ国内および占領地などに設置した設けたユダヤ人などの絶滅を国是とした大量虐殺(ホロコースト)の実態が明らかになりつつあった終戦直後。民間に身を潜めるナチス親衛隊将校らを探し出し処刑するホロコーストを生き延びたユダヤ人集団が実在した。その実話をもとにサスペンスリラーとして書き上げられた本作は、“復讐”するとは何かをいま現在を生きる一人ひとりに問い掛けている。

“目には目を歯には歯を”
600万人には600万人を…

戦争が終わり、ホロコーストを生き延びることができたマックス(アウグスト・ディール)は、暮らしていた郊外の家に戻ってきた。だが、家には自分をユダヤ人だと密告した隣人の家族が住んでいた。悪びれることもなくライフル銃で脅され、追い返される。町の難民キャンプに行く途中、英国軍支配下のユダヤ旅団のトラックに拾われたマックス。ユダヤ旅団の兵士ミハイル(マイケル・アローニ)にマックスは、戻ってくるかもしれない妻子の似顔絵を掲示板に掲げ、ここで捜したいという。一人の女性gあ似顔絵を持ってきて、マックスの妻子と一緒にいたが森に連れ出され殺されたことを知らされ絶望の奈落に突き落とされる。

その夜、ミハイルは、仲間と元ナチスの残党狩りから情報を聞き出し処刑する現場に連れて行く。その現場を見せられたマックスは、ナチスへの復讐心と怒りを抑えることが出来ずミハイルに「仲間に入れてくれ」と申し出る。ミハイルたちはあるナチス残党の家を捜し当てた時、すでに彼は木に括り着けられていた。男の首には「ナカム」(ヘブライ語で復讐)と書いた札が掛けられている。ミハイルは「ナカム」は元ナチスだけでなくドイツ人全体に復讐の牙をむいている厄介な集団だという。

ミハイルは、自分たちの復讐行動がすでに英国軍に知られていてユダヤ旅団の任務完了も近ためパレスチナの軍事組織ハガナーに入隊することをマックスに告げる。ミハイルのハガナーでの任務は、ニュルンベルクでの国際軍事裁判の開廷が迫っているなかで、ナカムが準備を進めている大規模な復讐行動計画を阻止すること。彼らの復讐行動によってパレスチナとユダヤに対する国際世論が厳しく批判されるとユダヤ人の国が建国できなくなる可能性もある。ハガナーに入隊したマックスは、ナカムに潜入し彼らの組織の規模を探り復讐行動を阻止する任務に就いた。

ナカムのリーダー、アッバ(左)とマックスを信用しきれないアンナ。 (C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

ニュルンベルクの街の壁に「ナカム」と落書きして立ち止まる者が現れるのを待ち続けるマックス。ある日、「ナカム」の落書きを見つめる女・アンナ(シルヴィア・フークス)のあとを追い、アジトに潜入したマックスだが彼らの捕縛されされてしまう。ナカムのリーダー、アッバ・コヴナー(イーシャイ・ゴーラン)は、マックスを尋問しその様子と身の上を信用するが、アンナは警戒心を解かない。どうにかナカムの一員になったマックスは、アンナが自分の息子を腕の中で亡くしたトラウマで夜な夜な呻き苦しんでいることを彼女から聞き出す。なぜ元ナチスだけではなくドイツ人全体への復讐行動を行うのか。マックスの問いにアンナは「ドイツ人は(ホロコースト)をみんな知っていたのに、私たちの泣き叫ぶ声を聞きながら知らぬふりをし、喜んでいた。“目には目を、”600万人には600万にを…」と呻吟の言葉をはく。ベルリンやミュンヘンなど5つの都市にナカムの組織は潜伏している。彼らがニュルンベルクのドイツ人たちに実行しようとしている「プランA」とは…

「何の罪もないのに家族が殺されたら」
「どうする? さあ、自問してくれ…」 

本作のオープニングは、観る者に重たい問い掛けを発する。水槽のような水の中を背中から底に沈んでいく男(マックス)。彼の声が「家族が殺されたとしたら? 想像してみてくれ」「何の罪もないのに家族が殺されたら どうする?」「さあ、自問してくれ。どうするかと」

重たいメッセージがテーマにしているが、ストーリー展開はサスペンスフルで引き込まれていく。ナカム、ハガナーは実在した復讐集団でナカムのリーダー・アッバも実在の人物。ほかは物語の登場人物だがドロン・パズ、ヨアヴ・パズの監督二人は、プランAの内容と復讐集団の元メンバーたちを取材し実話に基づいた作品に仕上げている。公式サイトに両監督は「家族全員を失い、想像しがたい恐怖を生き延びた男女たちは生きる希望もないと考えていた。そんな彼らが憎しみと復讐心という原初の感情で自らを満たしたのは、生きる目的を見つけるためだったのだ。今日の世界と比べると、これは今の時代にも続く要素なのだと私たちは考える。」とコメントに寄せている。

両監督のことばどおり、この作品のメッセージは、かつてのホロコースト犠牲者家族の実話にとどまらず、理不尽不条理な事件が頻繁に起き、いまも何処かで戦火を繰り広げている現在にも問い掛けられている。アンナは、旧約聖書の申命記から「目には目を、600万人には600万人を」と復讐の呻きを漏らしている。本作を観終わって、「主いい給う。復讐するは我にあり、我これを報いん」という同じ申命記のことばに想いをめぐらされた。犠牲者の家族が怒りと憎しみの怒りを復讐の炎にたぎらせるのではなく、聖書の神・主に委ねよという啓(さとし)が語られている。主に委ねることは何もしないこととは異なる。マックスの問いかけを想うとき、この主のことばが、心に問い掛けとなって聴こえてくる。【遠山清一】

監督・脚本:ドロン・パズ、ヨアブ・パズ 2020年/ドイツ=イスラエル/110分/原題:Plan A 配給:アルバトロス・フィルム 2021年7月23日[金]よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国公開。
公式サイト http://fukushu0723.com
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