‟信仰と科学は対立しない” 『科学ですべて解明できるのか』訳者森島氏が講演

写真=『科学ですべて解明できるのか? 「神と科学」論争を考える

写真=講演の様子。右が森島氏

現代社会の中で、「神」や「信仰」を語りうるか。科学と信仰は対立するものだろうか。キリスト者の科学者として積極的に発言してきたジョン・レノックス氏(オックスフォード大学名誉教授[数学])の著書『科学ですべて解明できるのか 「神と科学」論争を考える』(いのちのことば社)が翻訳刊行された。5月に同書の訳者による講演会が開かれると、クリスチャンの多様な分野の研究者らが活発に意見を言い合い、今後のキリスト教と科学についての発信に期待が寄せられた。【高橋良知】

訳者の森島泰則氏(国際基督教大学教養学部教授)は、若手のクリスチャン研究者を励ます志学会による「関東 第35回公開講演会」(5月31日、オンライン)で講演し、『科学ですべて解明できるのか』を踏まえつつ、自身の専門分野の心理学の観点、教育やキリスト教弁証論の実践の可能性などを話した。

同書でレノックス氏は、無神論者がキリスト教を批判する論点の誤解を解き、キリスト教と科学の関係を解説していく。その中で無神論者の前提とする土台の不確かさを指摘する。
森島氏は、文学部の学生時代に信仰をもったが、信仰と科学の関係に疑問をもっていた。「個人の主観としてはキリスト教を信じられても、客観的にはどうなのだろうか」という問いだった。 大学卒業後、中学校英語教員として歩んだ後、米国に留学し、第一言語の読解処理プロセスを認知心理学のアプローチで研究した。シリコンバレーの企業で研究職を勤め、レイオフ(一時解雇)を経験するなど苦労したが、「不思議と導かれて」現職にいたった。

この間も、信仰と科学の疑問を探求し続けた。「自分の専門の研究だけではなく、信仰を提示したいという思いが強くなり、クリスチャンだけではなく、クリスチャンではない人にも刺激になる本が必要だと思った。弁証論の本は欧米に非常に多い。出版社に相談し、いきついたのがレノックス氏でした」

志学会の講演では、レノックス氏の著書を踏まえ、①科学対宗教の「闘争モデル」、②神概念について「隙間の神」と「創造主なる神」、③科学主義、④科学における信仰、⑤信仰における根拠(エビデンス)について解説した。

①では、ガリレオ裁判は科学とキリスト教の対立ではなく、ガリレオもキリスト教を信仰していたことを指摘した。「対立の構図は19世紀後半につくられた」と言う。

②について、「隙間の神」とは、説明できないことを神のわざと見なす「説明としての神」だ。「しかし科学が発展すれば『隙間の神』と競合する。そもそも聖書の神は『隙間の神』ではない」と述べた。このことを自動車レースの優勝要因の例で説明した。「エンジンの機序による説明もできるが、設計者の思想や、情熱なしには説明できない。同様に自然法則を科学的に説明することと、創造主の神により説明することは競合するものではなく、次元の異なる問題です」

③について、科学主義とは、「科学が真実(確かな知識)に至る唯一の方法」という考えだ。代表的な言葉として哲学者のバートランド・ラッセルの「科学で解明できないことは人間は知ることができない」という言葉を挙げた。森島氏は「この命題が正しいならば、科学的説明以外にも知り得ることがあるということになる。なぜならこの命題自体が科学的ではないからだ。科学主義は論理的に成り立たない。哲学者のウィトゲンシュタインも、科学によって知り得ることには限界があることを指摘している」と述べた。

④について、「科学にも信仰の入る余地がある」と言う。「何かを信じる時に人は、証拠や根拠に基づいて判断や選択をする。科学もまた、エビデンス(証拠)を重ねることによって、理論の確からしさを判断し、受け入れる。すなわち信用する」と説明した。さらに物理学者のポール・デイヴィスやアインシュタインの考えを紹介し、「科学には自然界に人間が理解できる法則的な秩序が存在するという信仰がある」と指摘した。

⑤について、キリスト教信仰における「根拠」として、「しるし」(ヨハネ20・30、31)や「キリストの復活の事実」(1コリント15・17)の例、歴史文書としての聖書の記録、キリスト教の成立と発展、信じた人々の証言などを挙げた。

 

多様な意見、オープンに議論を

写真=心脳問題では、心を物理的現象で解明できると考える人や、物理・生化学敵現象と主観的心理現象の因果関係を否定する人の間で議論が交わされている

(この後、「心脳問題(心は脳に生じるのか)」を取り上げます。2021年7月25日号掲載記事

 ▽2021年志学会全国リトリート「若手教員はどう生きるか―神様の導かれた歩みを振り返って」

=8月27、28日。オンライン開催。講師は大島聖美 (茨城大学講師)、山口恵子 (新潟青陵大学助教)。2千円。申込締切は8月13日。 http://shigakukai.org/activities/retreat/