幻冬社、四六判、千540円税込

オリブ山病院理事長の田頭(たがみ)真一氏が、『全人医療とスピリチュアルケア』(いのちのことば社)、『老金期』(AmazonPOD)に続く最新刊『死という人生の贈り物』を著した。
本書は、七つの章からなる一つの物語と著者の解説が書かれ、特異な二重構造となっている。「いつかくるってことはわかっていた。自分の『順番』がいつか回ってくるってことは」。末期の膵臓癌を患い余命宣告を受ける主人公の山城勝。徐々に迫る自らの死に恐れを抱きつつも向き合っていく。孫との交わりやホスピスでの患者・チャプレンとの出会い、そしてイエスとの出会いが、真っ白になった山城の生活に再び色を与えていく。山城の心に響いた十字架の上でのイエスの言葉「父よ、彼らをお赦しください。彼らは、自分が何をしているのかが分かっていないのです」。
山城はどう死と向き合い、生涯を終(しま)うのか。死は逃れることのできない問題として私たちにもいつか直面する。解説で田頭氏は医学の進歩によって、全く新しいがん治療が行われるようになり、がんが治る可能性や、5年生存率も高くなった反面、以前のような、余命宣告によって緩和ケアに移行するという、治療期間と終末期の明確な区切り、境界線を失うことになったと言う。
日本の終末期医療は、キリスト教を背景としたホスピスから宗教色を取り除いて「緩和ケア」と名称を変え、同時に果たすべき役割の範囲をも変えてしまったとも考えられる。死を受容できずに、自らの人生を振り返るでもなく、とにかく最期まで「治す」ことだけにフォーカスする生き方は、本人だけでなく、時として看取る側にも大きな弊害をもたらすと死や病についての現在の問題について記す。
最近では、人が死の現実に対峙するためには、終末期だけではなく人生のすべての期間において死生観を学ぶ必要があるという理解が深まってきている。本書を通し、「死という人生の贈り物」の真義を探っていきたい。

クリスチャン新聞web版掲載記事)