被災地ドキュメンタリーをコメディ映画で撮ろうとするスティーブ(右)と撮影監督のボブ。 (C)「永遠の1分。」製作委員会

2011.3.11 東北太平洋沿岸一帯が大津波に襲われた東日本大震災。天災、人災など災難を“笑い”ネタにしては不謹慎という重たい空気感におおわれた。だが、当時から被災された人々の心の中には、大災害の暗澹たる底なし沼へ落ち込むよりも、苦難と痛みの中に在っても日常的な“笑顔”から前へ踏み出せる起爆があることを体験していた。その“笑顔”のエネルギーをコメディ映画にして語り継いでいこうとする作品。災害で家族を亡くした人、助けられなかったこと傍に居てあげられなかったことの負い目に悩み続ける人、風評で甚大な損害を被る人たち…。様々な苦難から前へ歩ませる背中ドン!の涙あり笑いありの好感が持てる良作です。

3・11をコメディ映画にと目論む映画監督と
家族を亡くした女性歌手の並行ストーリー

2019年6月。ロサンゼルスのレストランで黒人のライブハウス経営者ジョン(アレキサンダー・ハンター)が、日本人の女性歌手麗子(Awich)にプロポーズする。だが、麗子は日本に夫がいることを黙っていて御免なさいと告げて立ち去る。麗子を追いかけようとするジョンにレストランの外から「フリーズ!」と鋭い声の方に振り向くと拳銃を構える男がいる。両手を挙げるジョンだが、それが映画の撮影と気づく。間もなく駆けつけたパトカー。脚本・映画監督のスティーブ(マイケル・キダ)と撮影監督のボブ(ライアン・ドリース)は無許可撮影でやむなく撤収。

コメディ映画専門のスティーブとボブは、制作会社のボスから「日本で3・11のドキュメンタリーを撮るか、いやならクビか」と最後通牒を告げられる。気が進まないドキュメンタリー映画に取り掛かろうと日本へ向かうが、スティーブは3・11ドキュメンタリーは適当に仕上げて、「くノ一」の忍者映画を撮ろうと飛行機の中で脚本を練り始める。東京についてとりあえず通訳者探し。応募してきたのは玲奈(ルナ)で本業はアクション映画もこなす女優だという。渡りに船とばかり、まずは3・11の東京インタビューを取り始める。「もう復興したんじゃないの」とか「子どものころだったからあまり記憶にないし関心もない」と風化モード。だが、被災地を訪ねて被災地バスツアーでの記録画像や解説を聞き、漁師など被災者らから当時の惨状を聞くうちに、忍者映画ではなく予定通りドキュメンタリー映画を作ろうと言い出し、ボブは「コメディ映画専門のお前にドキュメンタリー映画は無理だ」と呆れて反対する。

被災地を取材すると当時の苦しい状況でも笑いが生きる力になった出来事が語られていく (C)「永遠の1分。」製作委員会

スティーブは被災地のある公園を歩いていると、何やらパフォーマンスの練習をしている集団に出会った。片言の問いかけをすると雑誌の取材を受けている様子で記者の真希(片山萌美)が演劇の練習だと教えてくれる。水族館での公演当日、現地の劇団が津波被災演じるのを観劇するスティーブは、津波ののまれた人と地上に残った人との思い出話やたわいのない対話に観客がくすぐりを感じたり笑顔がこぼれ楽しそうにしているのを見て、コメディタッチのドキュメンタリー映画にしようと決心する。脚本を練り、通訳の玲奈の熱心な協力を得て日本の製作会社をいくつもまわるが、「コメディにするのは、不謹慎だ」などと相手にもされず門前払い。だが、その動きを耳にした雑誌記者の真希が取材に来た。被災地の演劇から伝えたいと思う笑顔のパワーが記事になり、協力者が現れてくれればと一縷の望みを託したスティーブとボブ。真希も締め切りに間に合わせようと、徹夜して記事を書き上げた。だが、編集長の近藤(渡辺裕之)は勝手にスティーブとボブを批判するゴシップ記事に改編して印刷に回してしまう。スティーブたちを詐欺師らと同じたぐいだと決めつけている近藤は、取材記者として反論する真希に「俺は被災地の出身だ。部外者に何が分かる。部外者は黙っていろ」と言い捨てる。

ゴシップ記事ですっかり信用されなくなったスティーブたちは、アメリカの製作会社からも帰国命令を受ける。空港へ向かうタクシーがかけているCDの歌と歌詞に聴き入るスティーブ。運転手の柿本(毎熊克哉)は、歌っている歌手は麗子で今はアメリカに居るという。流れている曲の仕事で渡米していた時、仙台の祖母に息子を預けていたため震災で亡くしたため、日本は居たくないのだろうと教える。柿本は麗子の夫なのだが、スティーブにはファンだから知っていると答える。柿本の話しを聞いていたスティーブは、ホテルに引き返して帰国を取りやめドキュメンタリー映画の脚本を書きあげた。米国の会社は辞めて自主製作で映画を撮ろうと決心するスティーブ。真希も雑誌社を退職した報告をするためスティーブと会い、映画製作を手伝うことにした…。

様々な想いであの哀しい一瞬
思い出の時を迎える大切さ

11年目の3・11を迎える。大津波が東日本沿岸各地を次々に襲い始めた14時46分が想い起こされる。引き波に町が住民もろとも根こそぎ海へさらっていった爪痕のおぞましさ。原子力発電所も被災し放射能放出に汚染され未だに危険解除されない地域がある。愛する人の喪失感と先の観えない絶望感に自ら命を絶った人たち…。本編でスティーブは、さまざまな想いを表現して3・11の14時46分の1分間に迎えようと勧める。スティーブもまた、哀しい思い出を経験していたが自分らしい迎え方として、その時を笑って、迎えたいという。息子の傍に居てあげられなかった負い目を抱き続ける麗子はどのように迎えるのだろうか。その時の1分間をどのように黙禱するのか。ラストシークエンスの1分間の祈りは、あの日の哀しみとコロナ禍に重く覆われ暗雲低迷の今日への笑顔と明日を生きることの感謝と慈しみへと励ましてくれる。【遠山清一】

監督:曽根 剛 2022年/97分/日本/映倫:G/英題:1446: An Eternal Minute 配給:イオンエンターテイメント 2022年3月4日[金]より全国ロードショー。
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