原発から5キロの会堂で“帰還宣言” 福島第一聖書バプテスト教会大野チャペルで「帰還祈念礼拝」

変わり果てた町で「新たな使命」

原発から5キロの教会堂で11年目ぶりに礼拝が始まった。福島第一原発事故により帰還困難地域となっていた大熊町だが、一部地域で避難指示が解除され始めている。同町の保守バプ・福島第一聖書バプテスト教会大野チャペルで3月11日、帰還祈念礼拝が開かれた。教会員や関係者らが集い、震災後の歩みを振り返りつつ、これから町とともに歩む教会の使命を確認した。【高橋良知】

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「おかえりなさい」「ただいま」。礼拝冒頭、司会をした佐藤将司牧師は会衆に挨拶した後、涙をぬぐい賛美歌「いつくしみふかき」を導いた。

佐藤将司牧師

同教会は1947年米国人宣教師によって開拓、柿崎正牧師のもとでは幼稚園ができ、地域に影響を与えた。82年に佐藤彰牧師が25歳で着任した。その後、大熊町はじめ富岡町、南相馬市に計四つのチャペルを開いた。

佐藤彰牧師

しかし原発事故後、教会員は各地に避難を余儀なくされた。約60人は山形県の教会、東京都のキャンプ場と集団で移動した。

事故翌年の2012年4月、家を失った高齢の教会員8家族が入居できる教会アパート「エル・シャローム」(エルは神、シャロームは平安で「神様の平和のたたずまい」の意味)を建設した。

13年には国内外の支援を受けて、いわき市で泉チャペルを献堂。英会話、ゴスペル、学習支援ほか、近隣学校の合唱部の練習場所として部屋を貸すなど地域とかかわる。20年には食堂やゲストルームなどを兼ねた「エリムの泉」もオープンした。

主任牧師を将司牧師と交代し、彰牧師はアドバイザー牧師として支える。さらにユースパスター・副牧師に栗田義人牧師が就任している。

大野チャペルは修理整備を進めて6月26日から毎月第四週に礼拝を続ける。小高チャペルがある南相馬市小高地区は16年に避難指示解除。同年12月4日のオープニングクリスマス礼拝から毎月の礼拝を始めた。桜のチャペルがある富岡町夜の森地区は23年4月に解除予定だ。

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「一か月前に水道が通り、その後、電気も通ったばかり」と言う。彰牧師は「結婚式や献堂式のような思い」と礼拝再開の緊張や喜びを語った。詩篇126篇の言葉とも思いを重ねた。

75年前、戦後の荒廃した村に教会が必要と考えた村人の思いを受け同教会は始まった。「宣教師が初期から『いずれいわきで教会活動をするだろう』と言っていた。それが泉チャペルとして実現した。なんという神様の物語か」と語った。

震災から11年がたち、周囲の建物が取り壊されるなど景色は変わった。「産業誘致地区もできる。原発の廃炉の作業をする人たちもいる。故郷の癒やしと祝福のため祈らないといけない。これから教会の新たな伝道活動がスタートします」

震災発生時間の午後2時46分直前には、「福島第一聖書バプテスト教会大野チャペル帰還宣言」を皆で読み、黙祷した。

会衆で「帰還宣言」を唱和した

大野チャペルと周辺

 

「苦しんだから見えた世界がある」

(彰牧師は、震災後に出会ったウクライナ人神学生に思いをはせ、「今度は私たちが」と語ります。2022年4月10日号掲載記事)