福島に住み、見えたこと 協同労働と教会実践のシンポ開催 稲垣氏に聞く
稲垣久和氏
東京基督教大学名誉教授
「公共神学」をキリスト教界内外で提唱し、実践してきた稲垣久和氏(東京基督教大学名誉教授)は3月に同大学を退職したのを機に、4月から福島県に滞在している。そこで見えたものとは何か。震災、津波、原発事故を経験した福島県特有の課題とともに、地方ならではの課題も見えてきた。現在の取り組みと展望を聞いた。【高橋良知】
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稲垣氏は東日本大震災以降、被災地支援活動などで東北地方を何度か訪ね、深刻な課題に思いを寄せてきた。12月までの予定で福島県いわき市に滞在している。
4月にはいわき市の牧師交流会を訪ねた。同会では毎年市民クリスマスを主催し52回続く。「これだけ持続しているのは素晴らしいこと。社会的にも十分意義ある」と受け止める一方、「クリスマス以外にもできることはないだろうか」という思いも抱いた。
「教会は震災ボランティア活動をして力を発揮した。教会間の協力の体制もでき、地域から信頼される教会へと脱皮しつつある。今後はボランティアからさらに一歩進んで、就労を生み出す働きに教会がかかわることが重要ではないか」と考える。
自身の反省もあるという。「ずっと東京で暮らし、公共神学を提唱し続けたが、その内容はどうしても『都市型』だった。都市では職場での葛藤などの問題があったが、地方はそもそも労働の場自体がない。若者は都市部に流入していく。しかしこの公共的な課題に教会が参入できる可能性があります」
公共神学の観点でキリスト教社会運動家の賀川豊彦に注目し、賀川が推進した協同組合関係の働きともつながりをもつ。「中でもワーカーズコープ(日本労働者協同組合)は全国的に『仕事起こし』をやってきた。2020年に労働者協同組合法が成立し、今年10月に施行される。その中で彼らは目覚ましい働きをしています」
「仕事起こし」に教会も参与できる 協同労働と教会実践のシンポ開催
6月28日に、シンポジウム「地域社会と協同労働~みんなで創り上げる『公共圏』」をいわき市のグローバルミッションチャペル(平キリスト福音教会)で開催予定だ(午後3時から。問い合わせ先℡090・3090・1014住吉)。
シンポジウムではワーカーズコープ南東北事業本部から、協同労働の説明とともに、映画「医師中村哲の仕事・働くということ」予告編を紹介。稲垣氏は「中村哲の労働観と賀川豊彦の『神の国運動』」のテーマで講演する。さらに地域教会からは「ほっこりカフェができるまで」(増井恵・泉グレースチャペル牧師)、「地域に根差した教会づくり」(佐藤彰・福島第一聖書バプテスト教会アドバイザー牧師)、「ノルウェースモークサーモン工場の夢」(森章・グローバルミッションチャペル宣教使牧使)の紹介がある。「公共圏への教会の参与を推奨してきたが、福島県の教会はその素地がある」と稲垣氏は期待する。
「仕事起こし」という取り組みをするためには、「狭い意味での『伝道』から『公共神学』への考察を深める必要がある」と言う。「神から与えられている使命は狭い意味での伝道だけではない。伝道か社会的責任かという二元論でもない。神に創造された目的に人間が生きるということだ。この観点でクリスチャンではない人とも協働できる。教会が積極的に公共の場にかかわり、共に働く中で、クリスチャンではない人が、イエス様の愛を肌で感じることが出来るのです」
「福島に来てよかったのは、生活からたて上げる神学ができること」と話す。地域の家庭集会や祈り会に参加するほか、自身主宰で毎週キリスト教哲学の学習会を開く。「近隣の牧師、宣教師、信徒らが集い、15人ほどで生活に密着した問題を自由に議論している。神学とは欧米の神学を輸入することだけではない。生活の現場で立ち上がる問題を聖書と照らして考えることが重要。これから必要なことは、教会がクリスチャン仲間にしか通用しない言葉ではなく、公共の場で対話できるようになること」と勧める。今後も葬儀など様々なテーマでの対話の機会を設ける予定だ。