映画「戦場記者」――戦禍を暮らす市井の声と実情を送りたい
2月に起きたロシアの軍事侵略に抗戦するウクライナの戦況が連日テレビなどで報道されている。11月17日には、取材中にミャンマー国軍に拘束されて禁固刑10年の判決を受けていた日本人ジャーナリスト久保田徹さんが恩赦で解放された。世界各地で起きている紛争・戦争の現場を取材する戦場カメラマンや記者らジャーナリストが現地で何が起きているのか、その事実をいまも世界に向けて報道している。本作は、そうした戦場記者のひとり、TBS報道局外信部中東支局長・須賀川拓(すかがわ・ひらく)記者の取材活動を追ったドキュメンタリー。
「戦争に白黒はない」。双方の市民や
戦場の当事者、為政者らに直接取材
TBSテレビの英国・ロンドン支局。中東取材準備中の須賀川記者。ウクライナ、アフガニスタンなど取材エリアは広いが、中東支局長のスペースは、自分のデスク上に並ぶ数台のPCモニターの一つを指して「この辺りが中東支局長のエリアかな」と笑う。さらに中東支局の記者は須賀川自身一人だけ、戦場地域への取材は局内のカメラマン、録音スタッフらとクルーを組んで各地を飛び回っている。どこの地域に行くのでもヘルメットなど防弾具のチェックは必須。防弾チョッキに着いている日の丸は「日本と分かってもらえるので結構大事です。これを見て、どこの国だと言われたことはない」という。
「半分、意地で中東(取材)をやっている」という須賀川記者は、パレスチナ自治区のガザへ出発する。イスラエル国民を守る名目で分離壁に囲まれ狭い地域を拠点にするイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が唐突に起こる。抗戦するイスラエルのミサイルがアパートに着弾し住民10人が亡くなった。男の子4人と妻を亡くしたアルハディディさんは慟哭し、瓦礫の中から生後5か月のオマルちゃんだけ助け出せたとその時の様子を須賀川記者らに話す。須賀川記者は、パレスチナの市民もイスラエルの住民も「被害を受けた人は自分たちのことを知ってもらいたい思いがあるので、率直に話してくれる」という。
一方、ガザから数キロ離れたスデロットやアシュケロンを通るとハマスのロケット弾で壊れた家屋や家族を亡くした人に出会う。取材中も、彼らの頭上をハマスのロケット弾が飛び、それをイスラエルの迎撃ミサイルが撃ち落としている。「戦争に白黒はない」という須賀川記者は、ハマスとイスラエルそれぞれの当局者に取材し、攻撃する正当性を問いただす。
アフガニスタンでは、タリバンのムッタキ外相代行に女性の人権抑圧について質問し、経済制裁の煽りで職もなくドラッグや病気でで動けない人たちが密集する「橋の下の地獄」にも行く。ウクライナではロシアの攻撃と包囲で放射能汚染リスクが高まったチャルノービリ原発の職員も取材する。
守るべき家族を持つ須賀川記者は、なぜ危険な紛争地を取材するのか。それは戦禍で生活を破壊され、最愛の家族を失い、夢を見ることができなくなった人の実情と声を伝えたいからと言う。戦争の展開はニュースに載っても、戦禍に暮らす人たちの実情は、聞きに行く人がいなければ伝わらない。戦争の受け皿になっている人たちは、戦争をリアルに見つめている。報道できる時間は短い。制限時間から漏れた声は、TBS公式のYouTubeサイトやSNSなどで語り続けている。【遠山清一】
監督:須賀川拓 2022年/102分/日本/映倫:G/英題:A Conflict Zone Reporter 配給:KADOKAWA 2022年12月16日[金]より角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
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