社会的養護下の若者支援 「はこぶね」代表大藪さん

日本には全国に児童養護施設が約600か所、施設で生活する子が約3万5千人、里親のもとでの生活を含めた社会的養護下の子は4万6千人に上る。だが、18歳になると施設を退所し、里親からは自立しなければならない。彼らの多くは、社会に適応できず自立も難しい状況だ。「一般社団法人はこぶね」(大藪真樹代表)は、そんな若者たちのためのアフターケア事業だ。2012年12月創設以来今日まで、施設で生活する子や退所したばかりの若者たちに寄り添い、支援し続けている。

大藪真樹さん

昨年11月のある祝日、記者は「はこぶね」が運営する「Tomo Cafe(トモカフェ)」(千葉県八千代市)を訪れた。その日はおでんパーティーの日。野菜や肉を鍋にいっぱい入れ、煮込んだら、みんなで食べる。その日は施設を出たばかりの女の子が6人と大藪さん、ボランティア数人で、おしゃべりしながら頬張った。
皆、表向きは普通の子と変わらないように見える。だが、異様に笑い転げる子やおしゃべりしまくる子、食事を済ませると輪から一人ポツンと離れてスマホ画面をじっと見つめる子など様々だ。
「大笑いしている子はこれから一人暮らし。とても不安なので、ここで発散している。男子はにぎやかなのが嫌いなので、平日に来る。一人ひとりがいろんなものを抱えていますね」と、大藪さんは語る。「施設では衣食住は困らないが精神的な養育がない。小学校から高校まで同じ所にいて、常に他人と生活している。施設の職員は管理しないといけないので、『あれダメ、これダメ』という感じ。大事にしてもらっていないので、人を大事にしたり、人を信用することもできません」
そんな彼らがいきなり社会に出るのは、「助走なしで飛びなさい、というようなもの」だと言う。「家庭で育った子は親の愛情を受け、親をモデルに助走をつけて飛び立てる。しかし、この子たちは身体は大人でも、家庭で育った子が経験してきたような土台がすっぽり抜けてしまっている。大変なことがあると、すぐに揺らいでしまう。だから支援が必要なのです」

Tomo cafeおでんパーティーで。赤い服の人が大藪さん

「はこぶね」は、大藪さんが千葉県内にある児童養護施設を訪問したことから始まった。「5年間毎月、施設を訪問し子どもたちと遊んできた。5年たったある日、ある女の子が『施設を出た後、行きたくない所に行かされるかもしれない』と不安を打ち明けてくれました」
他の子も同じような不安を抱えて生活しているのを知った。「施設を出てからもずっとつながり続ける、〝信頼のできるオトモダチ〟が彼らには必要なのだと。その受け皿として『はこぶね』が立ち上がりました」
名前は、創世記のノアのはこぶねから付けた。その名前には「安全地帯を作ってあげたい」という思いが込められている。
始めてから10年。なかなか心を開かなかったり、いきなり関係を切られたりなど、試行錯誤の毎日。だが少しずつ変わり始めてもいる。「2年前にTomo Cafeが与えられ、支援してくれる企業が現れた。活動を始めてからは5人洗礼を受けた。その一人は今Tomo Cafeの働きを担ってくれている。東京基督教大学修士課程のぺ・スヨンさんがこの働きに献身してくれるなど、奉仕者も与えられてきています」
「神様が忍耐をもって私たちを愛してくれたから、私も忍耐して関わり続けられるのです」と、笑顔で語った。URL https://hakobune201705.net/

2023年01月29日号掲載記事)