「全員処罰」の危機

外務省の統計によると、難民認定制度が始まった1982年から2021年までの難民申請者はのべ8万7千892人、うち認定されたのはわずか915人で、難民認定率は1%だ。さらに政府は今年3月、入管法改定案を、2年前に廃案となった2021年改定案の枠組み、すなわち、難民申請者や超過滞在者を強権的に国外に追放しようする内容を維持したまま、再び国会に提出した。外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)は、難民支援に取り組む教会関係機関やNPОの実務者を招き、「『難民支援の現場から入管法を考える』教会セミナー2023」を3回にわたり、オンラインで開催した。

3月10日、大阪カトリック大司教区社会活動センター シナピス(以下・シナピス)事務局のビスカルド篤子氏が講演した。
シナピスは、大阪教区社会福音化部門の事務局として、大阪教区の各地区の社会活動委員会と連携し、人権の尊重と正義に基づく平和な世界の実現を目指す様々な活動を行う。その一つが難民移住者支援だ。支援内容は、難民申請手続き、難民申請や在留資格にかかわる裁判支援、生活支援、病院や関係機関への同行支援、自立支援など多岐にわたる。
「日本人なら、行政に助けを求めたり、自分が助けてもらいたいところにアクセスできる。だが、日本の社会に慣れておらず、言葉の壁がある外国籍の人たちは、いろんな相談を抱えてシナピスにやってくる。相談内容は、出産、母子保健、教育、仕事、医療、看取りまで、揺りかごから墓場までで、一つ一つの相談に対しできることがあれば一緒にする」
シナピスで関わっている在留資格のない人たちは、在留カードの期限が切れた高齢者、長年日本に定着し本国に生活基盤がない人、日本人の配偶者だった人、日本人の実子を持つ親、在留資格のない両親のもと日本で生まれ育った外国籍の子ども、無国籍の人、難民申請者など。こういった人たちは、入管庁は「送還忌避者」だと語る。
「特に難民申請者は、壮絶な背景を持ち、多くが何らかのトラウマを抱えていると、松浦謙シナピスセンター長は語っている」と話す。「この人たちに対し、難民申請制度を乱用する悪質性があるとの報道がある。しかし、難民認定してもらえないので、どうにか認めてほしいと、何度も申請し続けるしかない。今回の法案は、そういった難民申請者を、申請中であっても強制送還できる仕組みを設けようというもの。申請中でも帰国を命じ、従わないと処罰する。このような恐ろしい法案だ」

ビスカルド篤子氏

「この法案が通ってしまうと、今私たちが関わっている目の前のほぼ全員が捕まってしまうことになるということ。今私たちが関わっている在留資格のない人たちは、全員が帰国を拒む理由を持ち、在留を認めてほしい、保護してほしいと訴えている。だが、入管庁にとっては送還忌避者でしかない。彼らを守るためにも、何としても廃案に持っていかなければいけない」
その上で、廃案に持っていくための方法として、署名、院内集会への参加、街頭署名運動、国会前シットイン(座り込み)行動、ファックス送付、あちこちで法案の問題点を明らかにする学習会を行ったり、アピール活動をする、法務省や入管庁に意見メールを送る、などを挙げた。「2年前に仮放免者のウィシュマさんの悲惨な事件があったが、その前後にも同じ状況で苦しんでいる人たち、亡くなってしまった人たちがいる。無期限収容下に置かれた人たちを拘禁施設から解放するためには、その人たちに具体的な形で手を差し伸べるという勇気を持たないといけない。ただ、個人で動いているわけではなく、私たちには教会が支えてくれているという強みがある。二の足を踏みそうな身元保証人にもなれる」
「私たちは声なき声の人たちと出会う。その人たちの状況を知ってしまうとあまりに深刻で逃げ出したくなる思いがよぎる。だが、その人たちが自分の背中を押し、自分に勇気も与えてくれる。私たちが保護するのはお荷物の難民ではない。苦しむ人たち、弱い立場にいる人たち一人ひとりに素晴らしい能力があり、日本社会を豊かにしてくれる存在となりうる人たちだ。彼らを積極的に助ける橋渡しとなれるのが難民の方々であり、難民の方々から多くのことを発信してもらい、つながることによって私たち自身が変えられていく。それは幸せなことだと思う。だからこそ、負けず諦めずに、今回も廃案に持っていきたい」と結んだ。
教会セミナーは3月17日、31日も継続される。

2023年04月02日号   01面掲載記事)