サックス知子(LIGHT PROJECTディレクター:信仰と仕事ミニストリー)

宣教論、説教論、牧会論、さらには都市論、文化論など多様な広がりをもつティモシー・ケラー著『センターチャーチ バランスのとれた福音中心のミニストリー』(いのちのことば社)に関する連載、最終回は「信徒によるミニストリー」の視点でサックス知子氏(LIGHT PROJECTディレクター:信仰と仕事ミニストリー)。

前回までは以下から
新連載 福音広がる『センターチャーチ』① 宣教は深い自己理解と生き方から 評・篠原基章 2023年02月26日号
福音広がる『センターチャーチ』② 開拓は既存教会のためにも必要 評・播義也(アジアン・アクセス・ナショナル・ディレクター)2023年03月05日号

文化への冷静な洞察を助ける 福音広がる『センターチャーチ』③ 評・南野浩則 2023年03月12日号

えり好みでなく最初から読んで

まず、大学の教科書のような体裁に、臆する方がおられるかもしれません。また、多岐にわたる側面が含まれていて、自分に関係のある部分だけを抽出して読みたくなります。さらに、主な読者は牧師や教会指導者なので、自分には関係がないと考えるかもしれません。

しかし、これらすべてを乗り越えて、すべてのクリスチャンに、しかも、最初から読んでいただくことをお勧めします。

 

『センターチャーチ』の構成
 【序章】センターチャーチの神学的ビジョン
 【福音】:第一部 福音の神学、第二部 福音の刷新
 【都市】:第一部 福音の文脈化、第二部 都市のビジョン、第三部 文化との関わり
 【ムーブメント】:第一部 宣教的コミュニティー、第二部 統合的な宣教、第三部 ムーブメントダイナミクス
【終章】 後期近代とセンターチャーチ

 

最初に記されている福音が、すべてのクリスチャンや教会にとっての中心(センター)であり、この本のテーマです。 福音は、何であって、何でないかを読み進めていくと、私たち一人一人、そして、その集まりである教会がいかに中心からずれる危険性があるか、または既にずれているか、そのずれはどういうもので、なぜそう現れるのかなど、ごく日常で見るケースから気づきが与えられます。そのずれというのが、この本のもう一つのテーマである「バランス」を欠いているということです。

そこでは、個人的にヒヤッとする場面があったり、教会での問題の原因に思い当たります。どうも、私たちはこのずれの原因である罪にいつも陥ってしまうもので、福音による刷新が毎日毎秒必要になるわけです。

そして、「福音はすべてに影響する」と書かれている通り、福音は私たちの教会や宣教活動だけでなく、私たち一人一人の人生や仕事、さらには、この社会全体へと影響を及ぼします。しかし、ややもすると福音が個人や教会内、または特定の範囲内に留まってしまっているかもしれません。

都市とムーブメントの章は、それに対するケラー氏の提案とも捉えられます。私の夫は長年ケラー氏の教会にいたので知っていますが、ケラー氏は牧会者や教会開拓者だけにとどまらず、ニューヨークではいつもクリスチャンではない若者とコーヒーを飲みながら、膨大な聞き込みをされて来ました。そのいわばマーケットリサーチに裏打ちされた、福音を効果的に伝えるための「文脈化」がさらなるテーマです。ここにおいても、文脈化をし過ぎたり、しなさ過ぎるというバランスを欠いてしまう危険性が示唆されています。

さらに、「統合性」のテーマがあり、そこでは、信徒によるミニストリー(信徒リーダーや信徒によるリーダーシップではない点に注意)など様々なミニストリーや有機的教会(この世界で活動するクリスチャンの集まりや組織)によるクリスチャン一人一人が福音を広げることに話が及んでいます。

周りの人々とディスカッションしながら読んでくださると福音の豊かな力が働くに違いありません。(終)

2023年03月19日号03面掲載記事)