尺八と言えば「和」を表現するときに流れるBGM、虚無僧が吹くさみしげな音楽、演歌や民謡の伴奏、などがイメージされるかもしれない。今やジャズ、ロック、アニメソング、ゲーム音楽、など幅広い分野で広がり、女性の演奏家も増えた。海外での演奏者人口も増えている。オーケストラや西洋楽器との共演もあるが、教会ではまだまだなじみが薄いかもしれない。そのような中、幼少から和楽器に親しんでいた尺八奏者の飯吉規邦(のりくに)さんは、積極的に教会で演奏活動をする。【高橋良知】

 

「尺八プレイズ」全15曲、2,750円税込、ミクタムレコードHP:michtam.com

 

「世界で最も感情表現できる楽器」による平安と柔らかさ

 

小さなホールは、あたたかい音につつまれた。飯吉さんとピアノ奏者吉田恵さんの演奏によるCDアルバム『尺八プレイズ』がミクタムレコードからリリースされ、4月14日に東京・千代田区の紀尾井町サロンホールでリリース記念コンサートが開かれた。

吉田さんとの演奏は2009年から続けていた。「ピアノと尺八、しかも賛美歌を演奏するという組み合わせはない。ぜひCDにしたい」と思っていた。親交があったユーオーディアの柳瀬洋さんを通してミクタムに連絡。小坂忠さんの背景にも謡など、日本の伝統音楽があったことから関心がもたれた。ミクタムとして初めての和楽器演奏のCDが出来上がった。

 

吉田さんと飯吉さん

 

長年演奏してきた吉田さんのピアノとは、「あうんの呼吸」と話す。吉田さんは「尺八に合う音は、丸みのある、イエス・キリストのような柔和な音」と言う。「飯吉さんの演奏にはソフトな表現力がある。演奏がいつの間にか礼拝になっていく。賛美であり礼拝、そのような思いがした。和と洋の違いがあっても同じ気持ち、同じ方向、同じ目的でへだたりなくできます」

演奏会ではCDと同じく、日本の唱歌に始まり、賛美歌、ワーシップソング、黒人霊歌などの曲を演奏。

飯吉さんは長さの異なる4本の尺八を持ち替えながら演奏した。尺八には、横ゆり、タテゆり、まわしゆり、などの多様なビブラート、コロコロやカラカラといったトレモロのような音、かすれた雑味ある音、つやのあるはっきりした音、など様々な音色がある。世界的なチェロ奏者ヨーヨー・マも以前来日した際、「世界で最も感情表現ができる楽器」と尺八を絶賛したという。

このような多様な音を用いて、アメイジンググレイスでは、ゆったりのびやかな「日常」、もの悲しさと揺らぎのある「試練」、ぐっとおしころしたような「忍耐」、おおらかに吹き上げる「解放・喜び」という展開を表現した。

「尺八は、人の息に近く、柔らかさがある。心の奥に響いて平安をもたらす」と、ミクタムレコード代表で、音楽プロデューサーの高叡華(こう・えいか)さんはコメントした。

 

和楽器とオーケストラを行き来し、教会へ導かれた

 

父親は尺八と民謡、母親も箏と三味線の演奏者、という家庭環境で育ち、「子守歌は箏と尺八」だった。「10歳で父から無理やり尺八を習わせられた。演奏するのは、子どもには『面白くない』と思えた古い曲ばかり」。次第に尺八から遠ざかり、高校からはオーケストラでチェロを始めた。そんな中、従来の伝統の枠を超えて活躍していた宮田耕八朗さんの演奏レコードを聴き、尺八を再開。オーケストラ活動もしつつ、宮田さんのもとで尺八を習い続けた。

大学卒業後は一般企業に就職した。配属先の大阪で、同じアパートに住んでいた牧師夫妻に食事に誘われた。チェロの演奏ができるということで、教会にも通うようになった。実はアパートのクリスチャンの大家さんのとりはからいだった。聖書の学びもスタートした。「西洋音楽の背景をタダで学べる」と喜んだ。

そのように様々な人とのかかわりと学びの中で、「無条件の愛」を知った。「神を離れるということが罪。そんなわたしたちのために罪をゆるし、永遠のいのちを無条件で与えてくれた」。

 

自然、喜怒哀楽、すべては世界を統治する神様のギフト

 

クリスチャンとなって演奏の在り方も変わった、、、、、、

2023年05月07日号08面掲載記事)