人口減少地域は後回しでいいか

大船渡市の中心部は、新しい商店街がたつほか、空き地が目立つ。津波被害を伝える伝承施設の屋上では、かつての町並みと現在の様子を比較できる。2023年2月

 

消滅…まちが先か、教会が先か

 

ある人たちは、じわり、と苦しい状況に追い込まれる。ある人たちは、無意識に、誰かを追いやる。その背後には、個人の責任だけでは打破できない構造的な問題=「格差」があるかもしれない。各地の過疎化もその一つ。今回は人口減少化が進む地域での開拓伝道に焦点を当てよう。

 

日本全体の人口が減少し続けている。少子高齢化、人口の一極集中などによって「消滅可能性都市」が生まれている。今後もこの傾向に拍車がかかるか。一部の地域とそれ以外の地域で「格差」が生まれている。

「まちが消滅するのが先か、教会が消滅するのが先か・・・。人口が集中する地域に注力し、人口減少地域はその後でいい」。〝効率〟を考えれば、そんな合理的判断もあるだろう。このような状況でも、教会がなかった地域、特に人口減少地域でも開拓伝道が進む。その現場の声から、開拓伝道の意義を考えてみよう。

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一人ひとりの痛みに関わる

コンクリートの壁と盛り土が海と陸の間にあった。真新しい商店街があるほかは空き地が目立つ。岩手県沿岸南部の大船渡市は、12年前の東日本大震災で甚大な被害を受けた。インフラは整備されたが、それ以前の町並みと様変わりした。

「ここへ来て7年になるが、人口は5千人減った」

同市で開拓伝道を進める齋藤満さん(同盟基督・グレイスハウス教会牧師)は言う。震災後の移住で大きく人口が減ったが、最近でも年間約130人が減少している。少子高齢化も加速化している。経済規模が小さく、人びとの平均収入も高くない。

「『ここでの教会開拓は常識的には考えられない』。開拓前に何度も聞いた言葉だ。震災後、支援活動が落ち着き、岩手県沿岸での教会開拓の話が出たときに手をあげた教団教派は少ない。これまでの先達たちの開拓の挫折も、何度か耳にした。平均的な教会が10家族で経済的に成り立つとすれば、こちらでは20家族必要。そもそも市自体が消滅可能性都市だ。震災復興関係事業は次々と閉じている。震災は忘れてはならないことだが、もともと地方としての痛みがあった。町の人々の危機感、苦しみを共に味わっていくことが重要」と齋藤さんは話す。

このような状況だが、「手ごたえ」も感じている。「仮設から付き合いのある人で、魂の向き合い方を考えている人がいます」
仮設住宅から復興住宅へ人々が移ったが、健康体操「ふまねっと運動」を通じた支援活動を継続してきた。訪問の働きも仮設住宅のころから続けている。「掃除、大工仕事を手伝う中で私たちを知ってもらう。目の前で津波にさらわれる人々を見た話などたくさん聞いてきた。ただただ聴くことしかできない。『いつか自分が死んだらどうなるか』、という問いがリアルだ。心の深い部分は本当に神様しか癒やせない。だから日常の様々なお手伝いをしながら、伴走していきます」

震災の痛みのみならず、虐待、DV、離婚、家庭の様々な問題にも直面する。「宣教の基盤ができると一人ひとりの痛みにもより関われる。教会として神様が何を私たちにさせようとしているのか吟味しながら働きを選んでいきたい」と述べた。

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震災支援活動をへて、グレイスハウス教会を設立して4年目(2019年5月設立)。途中コロナ禍による活動縮小、前の拠点からの撤退などがあったが、昨年新たに会堂となる建物を取得し、活動を展開している。

昨年12月にリフォームが完成した。クリスマス礼拝には、通常の出席者14人に加え、17人が集った。「長年かかわっていても教会まではなかなか来られない人もいる。そのような方々が今回初めて教会に来てくれた。教会ができ、腰を落ち着かせるんだ、と思っていただいたようです」

沿岸の必要と現状を深く理解し、祈り求めたことは、「できるだけ次世代に負債を負わせない開拓」。「借金を背負っての教会開拓は、被災地では特に難しい。そもそも経済的自立をしているケースがほとんどない。そのことで苦しむ教会の話を聞いてきた。私の代だけの問題ではない。ただ神様がここで教会をおつくりになりたいならば実現するだろうと思っていました。教団内でやりくりできるかというと、財政的にそんな簡単なことではない」と話す、、、、、、

2023年06月04日号1,4面掲載記事)