「人の心のガバナンス革新」へ エネルギー・仕事・都市…

 

「なぜ日本の共同体にキリスト教が必要か」。そのような問題意識で『閉塞日本を変えるキリスト教-公共神学の提唱』(稲垣久和・水山裕文共著、いのちのことば社=写真=)が刊行された。東京基督教大学名誉教授の稲垣氏と「連続起業家」の水山氏は、9月に「シンクタンク公共神学」を設立。同書の出版記念シンポジウムを、10月14日に開いた。【高橋良知】

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同書は福島第一原発事故で明らかになった日本社会の構造的な問題に切り込む。それらを神学的課題としてとらえる「公共神学」の視点を提示し、地域活動に取り組む教会の事例も見ていく。

出版記念会で稲垣氏は公共神学の視点は「個人の罪の贖いのみならず共同体の罪と悪の回復について語る」、「共通恩恵の神学」だと説明。「共通恩恵は、クリスチャンではない人も含む人間という被造物が、神の栄光を表わす文明を築く原動力として与えられた。だが核エネルギーの解放の時代になって構造的な悪が自らを滅ぼす兆候がみえてきた」とも指摘した。

「原発をやめればそれで済む話ではない。クリーンなエネルギー革命が必要だ。それだけではなく地域に生きる市民のモラル、企業と政治家のモラルが大切になる。『人の心のガバナンス革新』が公共神学の出発点となる」と述べた。

これに応じて、風力発電の第一人者、牛山泉氏(足利大学 理事・名誉教授)が語った。日本のエネルギー危機と、自然エネルギーの可能性について述べ(2面参照)、内村鑑三や賀川豊彦が評価したデンマーク社会について紹介した。稲垣氏との対談の中では教育の重要性を強調した。

続いて埼玉県戸田市で「協働のまちづくり」にかかわる横山誠氏(戸田福音自由教会牧師)、信仰と仕事に取り組むサックス知子氏(LIGHT PROJECT 創設者、ディレクター)を交えてパネルディスカッションした。 戸田市では「若者と高齢者」、「旧住民と新住民」、「日本人と外国人」という対立構造があり、市 民・行政・議会による「協働のまちづくり」を進めてきた。横山氏は、まちづくりにかかわったきっかけとして「東日本大震災後に、エレミヤ29章7節に教えられ、人を集める教会から地域に出ていく教会へとベクトルが変わった」と話した。「教会を公共の『場』として認識していただくことと、牧師自らが公共に仕える『しもべ』として地域に出ていくことを実践している」と話した。

サックス氏は、公共神学と有機的教会の役割を語った。「LIGHT PROJECTでは、特に一人一人のクリスチャンが有機的教会であることに重点を置く。企業、地域、家庭、学校、教会などそれぞれが遣わされた働く場所で、キリストの光を輝かせ、日本の文化や社会のすべてに影響を及ぼしていくことがビジョンだ。信仰と仕事は統合できる。個人的・私的な信仰だけに終わらず、包括的な福音の理解によって、周りや社会に福音のインパクトを与えていける」と説明した。

これらに応答し、稲垣氏は「教会は親密圏にとどまると同時に、公共圏にもせりだし、異質な他者と出会うことが大事」と話した。牛山氏は「多くのキリスト教学校の理念にあるように、人に仕えることは喜びだと伝えることが大事」と述べ、具体例としてサーバントリーダーシップを指導哲学とする那須の「アジア学院」と荒川朋子校長の取り組みを紹介。「若者や地域社会に光を与えていきたい」と語った。

最後に横山氏は「政治、社会問題は山積みだが、あくまで地域教会の牧師、一人のクリスチャンとして、地域課題を神様に与えられた課題として向き合いたい」、サックス氏は「一人一人のクリスチャンが、有機体的教会として神からの使命と目的を持ち、神の国を完成されるという計画に参画する喜びと希望を味わって欲しい」と述べた。