アールイが「いつもどおりで?」と声掛けすれば、常連さんも「いつもどおりで」。 (C)2023 Bole Film Co., Ltd. ASOBI Production Co., Ltd. All Rights Reserved

東京の下町からも減少しつつある「床屋さん」「理髪店」と“常連さん”という親し気な言葉。かつての地域の人との絆に支えられ、昔ながらの手技で理髪店を営んでいる女性店主のある日を描いた温もりのある台湾映画。

人と人との心の温もり
つながる“常連さん”

主人公は、台中の下町で3人の子どもたちを育てながら40年間理髪店を営むアールイ。長女のルイは台北でスタイリストをしている。彼氏と暮らしているが、どうも浮気相手がいるようだ。次女リンは町の大きな美容院で美容師をしている。この頃は自分の顧客がお客のニーズを丁寧に聞くイケメン美容師アンディになびていくのが気にかかる。長男のナンは一獲千金の夢を追い続けていて定職についていない。いまは太陽光発電設備をアールイに売ろうとしている。子どもたちはあまりアールイに顔を見せにも来ない。ただ、近くで自動車修理店を営む、ルイの元夫チュアンだけがアールイの古い愛車の面倒をみたり何かと頼りになる常連さん。

そんなある日、先月来店がなかった常連さんの“先生”のことが気になったアールイは、連絡帳代わりの名刺入れから“先生”宅に電話をする。応対した家人は、妻を亡くしてから台北の娘の家に引っ越したという。アールイは、ぜひ先生の出張散髪をさせてほしいと強く懇願して了承される。「本日公休」のプレートを下げると愛車を駆って出かける。ツーリングの自転車に追い越される慎重運転で…子どもたちに告げず自宅にスマホを置き忘れたまま…。

毎月足を運んでいた“先生”は入ってくると座り、新聞を読み始める。それだけでもアールイには先生のご機嫌やどれくらいハサミを入れてほしいか伝わっててくる… (C)2023 Bole Film Co., Ltd. ASOBI Production Co., Ltd. All Rights Reserved

近隣の人たちと絆、人情に培われ来た思いやりと出しゃばりの温もり。身体が弱っていく親と現代社会の中で生き方を探す子どもたちとの距離感。“先生”の家に着いたアールイが、自分を育ててくれた師匠の言葉を心に復唱しながら散髪するシークエンスに、彼女の互いに生かされていることの感謝が温かく伝わってくる。効率優先のマニアル化社会のなかで、薄れゆく人情の絆が照らし出されている。【遠山清一】

監督:フー・ティエンユー 2023年/106分/台湾/原題:本日公休、英題:Day Off 配給:ザジフィルムズ、オリオフィルムズ 2024年9月20日[金]より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト https://www.zaziefilms.com/dayoff/
公式X https://x.com/dayoff_JP

*AWARD*
2023年:第25回台北電影奨最優秀主演女優賞(ルー・シャオフェン)・助演男優賞(フー・モンボー)受賞。第60回台湾金馬奨助演女優賞(ファン・ジーヨウ)・主題歌賞(「同款」歌唱ホン・ペイユー)受賞。ウディネ・ファーイースト映画祭脚本賞(フー・ティエンユー)受賞。第18回大阪アジアン映画祭観客賞・薬師真珠賞(俳優賞)受賞。あいち国際女性映画祭2023クロージング作品。