ナチス占領下のフランスにユダヤ人迫害の嵐は吹き荒れた時代のユダヤ人のサラを護るフランス人のジュリアン(C)2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved.

6年前、日本でも大ヒットした映画「ワンダー 君は太陽」は、先天性疾患で人と異なる顔で生まれ、いじめの標的になった少年“オギー”を支える家族、友人たちの物語。原作者R・J・パラシオが、オギーをいじめた側の救済まで描かなければワンダーの世界観は完成しない、と決意して書き上げたアナザーストーリー『ホワイトバード』の映画化。物語の舞台はオギーの家族プルマン家から、オギーをいじめていたジュリアンの祖母サラの父方ブラム家が第二次大戦下にフランスがナチス・ドイツの占領下にあった時代に転じる。今年11月6日まで開催されていた第37回東京国際映画祭ガラ・セレクションにラインアップされ日本でのプレミアム上映を果たした。

ユダヤ人迫害の嵐が起こる
第二次世界大戦下のフランス

オギーへのいじめが原因で退学になったジュリンアン(ブライス・カイザー)は、まだ自分の居場所を見出せないでいた。そこにメトロポリタン美術館の回顧展に招かれていた社会派画家の祖母サラ・アルバンス(ヘレン・ミレン)がパリからやって来た。退学処分の原因を知っているサラは、孫のジュリアンにいじめる側だった経験から何を学んだか訊く。「あの経験で学んだのは、人に深入りしないこと。意地悪もやさしくもしない。ただ普通に接する」と答えるジュリアン。その応答に胸を痛めた祖母のサラは、できれば忘れたいと思っていた少女時代の自分の経験を「あなたのために話すべきね」と語り始める。

1942年夏。フランスの傀儡(かいらい)政権は、ナチスドイツのユダヤ人一斉検挙に協力しパリでのヴェル・ディヴ事件をはじめ各地で展開される。ユダヤ人外科医の父・マックス・ブラム(イシャイ・ゴラン)と数学教師の母ローズ(オリビア・ロス)に愛情豊かに育てられたサラ(少女時代:アリエラ・グレイザー)が暮らすオーベルヴィリエ・オ・ボア村の店舗にも「ユダヤ人お断り」の注意書きが貼られ危機感が迫っていた。非占領地域のここにまでなぜ、と戸惑う母ローズ。ユダヤ教のラビも既に逃亡しているのだからと脱出を説得する父マックス。サラは、なぜ自分たちは憎まれているのか、と理不尽な周囲の偏見をマックスに泣きながら尋ねる。マックスは「(みんながそうではない)心に光をもっている人は、その光で人を見る。…心に光が輝いているうちは私たちの勝ちだ」と諭す。

だが翌日、ユダヤ人一斉検挙のためドイツ兵たちがサラの学校にやってきた。チャプレンや教師たちはユダヤ人生徒たちを逃がそうとするが、サラが憧れている同じクラスのヴィンセント(ジェム・マシューズ)が「教師たちが逃がそうとしている。まだ近くにいるはずだ」と将兵に通報し、ユダヤ人学生たちはほとんど捕縛される。サラだけはどうにか別棟の塔に逃げ込んだが、ドイツ兵は近辺を捜索している。その時、同じクラスのジュリアン・ボーミエ(ブライス・ガイザー)が突然サラの前に現われた。水道事業者の息子ジュリアンは、ポリオの後遺症で左脚が不自由なため、クラスの生徒たちから「臭い、汚い」と蔑まれ、無視されるいじめにあっている。サラもみんなが侮蔑的に“トゥルート”というあだ名だけしか記憶がなく、本名を知らない。ジュリンアンは父親に教わった下水道を通って、自宅がある村にまで案内し、サラを納屋のテラスに匿(かくま)った。

ジュリアンは学校でのいじめで退学処分を受けたが、その意味をあまり感じていない様子に祖母のサラは、孫と同じころに遭った辛く凄まじい経験を語り始める (C)2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved.

ジュリアンは両親にユダヤ人のサラを匿うことを話すと、命の危険を覚悟で了承し、サラの両親に行方も探してみると約束する。だが、サラの両親の消息は分からなママ月日が経っていく。ジュリアンの母ヴィヴィアンはサラを娘のように接してくれる。ジュリアンは学校の行き帰りを道路ではなく、目立たないように山道を抜けて通っている。外に出られないサラのため、学校の授業内容を教えるジュリアン。ボーミエ一家はいのちの危険を覚悟してサラを護る。サラは、ジュリアンをいじめたり侮ることはなかったが、ジュリアンと関わろうともしなかった。その自分を守ろうとするジュリアンの勇気と優しさに気づき心を開いていく…。

闇で闇は追い払えない。
光だけがそれを成し得る

暴力が闇のように人々の心を覆っていく時代。サラは父親に、なぜ人は自分たちを憎むのかと尋ねる。父親が「そうじゃない人もいる。心に光をもっている人は、その光で人を見る。心に光が輝いているうちは私たちの勝ちだ」と答えた言葉がサラの心に刻まれる。生徒たちを助けようとした人、サラの出国のためビザを偽造しようとした人など小さな親切に勇気と命を懸けた人たちがいた。孫のジュリアンに語り終えたサラは、メトロポリタン美術館での講演の中でマルチン・ルーサー・キング牧師の説教集から「闇で闇は追い払えない。光だけがそれを成し得る」と有名な一節を引いて語る。キリストを“光”と表現したヨハネの福音書1章5節と関係する一節だが、小さな親切を行うにも勇気と希望が奇跡のような世界を切り開いてくれることを感じさせられた。【遠山清一】

監督:マーク・フォースター 2024年/121分/アメリカ/英語・フランス語/映倫:G/原題:White Bird 配給:キノフィルムズ 2024年12月6日[金]よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。
公式サイト https://www.whitebird-movie.jp
公式X https://x.com/whitebird_movie/