(C)PORT-AU-PRINCE Film & Kultur Produktion GmbH
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3年前の「少年と自転車」(監督:ダルデンヌ兄弟)や2013年の「明日の空の向こうに」(監督:ドロタ・ケンジェジャフスカ)、昨年は「悪童日記」など、少年から大人への一歩を踏み出す時期を描いた秀作が近年多く公開されている。本作は、そのテーマを描いた映画を語るとき、取り上げるべき作品の一つに間違いない。

兄のジャック(イボ・ピッツカー)10歳は、毎朝のように6歳の弟マヌエル(ゲオルグ・アームズ)に朝食をさべさせてから学校へ行く。若いシングルマザーのザナ(ルイーズ・ヘイヤー)は、まだ自分の恋愛が最優先で帰宅は夜遅くか数日帰らないこともある。

ある日、お風呂のお湯の温度を調整するのを忘れ、マヌエルが火傷した。その事故がきっかけで、ジャックはベルリン郊外の養護施設で保護されることになった。就学前のマヌエルは母親が手元で育てることになったが、ザナは友人にマヌエルを預けたまま恋と夜遊びの生活に戻ってしまう。

夏休みには、家に帰って母親と弟といっしょに暮せるのを心待ちにして養護施設でのさみしさを耐えるジャック。だが、夏休みの前日にザナから「忙しいので夏休みになっても3日間は帰れない」と電話が入った。夏休みになった。同室者の双眼鏡で湖の向こう岸を見ていると、いつもイジメられる年長のダニーロが来て双眼鏡を湖に投げ込んだ。思わず太い枝で背後からダニーロを殴り倒したジャックは、そのまま施設を逃亡した。

自宅に戻ったが、いつもの場所にドアの鍵はなく、マヌエルもいない。施設の人たちが自宅に来るのは分かる。どうにか弟マヌエルの預け先を探し当て、二人で母親ザナを捜して夜の街を歩き回るのだが…。

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養護施設でのイジメ。まだ母親に甘えてみたい10歳。一方で弟を守る気持ちは目いっぱい持っている10歳。母親と付き合っていた男は「お前たちは母親に見捨てられたんだ」と言い放つ。その一言に、毅然と「違う!」と気迫を込めて反発するジャック。弟マヌエルはほとんどしゃべらず、駄々をこねるでもなく、健気にジャックを信頼して行動するだけに、ジャック役のイボ・ピッツカーくんの表情や演技が際立って印象深く焼き付いてくる。

イボ・ピッツカーくんの演技の素晴らしさだけでなく、気ままに行動するシングルマザーを、単にわがままなネグレストとしてステレオタイプな悪印象を与えていない脚本の底力はなんとも素晴らしい。母を慕う兄弟のシンプルな冒険ストーリーをとおして、ザナの心の飢え渇きや子どもを持つことの安らぎなど、生きていることの意味や現代社会の冷めている一面を移す出しているようなベルリンの夜景の不思議な美しさに問いかけられている気がする。 【遠山清一】

監督:エドワード・ベルガー 2014年/ドイツ/103分/映倫:PG12/原題:Jack 配給:ショウゲート 2015年9月19日(土)より東京:ヒューマントラストシネマ有楽町、名古屋:センチュリーシネマ、大阪:テアトル梅田ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://bokuranoieji.com
Facebook https://www.facebook.com/Bokuranoieji

*AWARD* 2015年ドイツ映画祭作品賞銀賞受賞。2014年第64回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作品ほか。