いまも太地町を監視にやって来るシー・シェパード (C)2015 YAGI Film Inc.
いまも太地町を監視にやって来るシー・シェパード (C)2015 YAGI Film Inc.

2014年、オーストラリアから国際司法裁判所に日本の調査捕鯨が「商業捕鯨の隠れ蓑」であると提訴された。裁判所は審議の結果、南極での捕鯨プログラムを見直すようよう裁定を下した。この裁定に八木景子監督は、「やがて日本から鯨肉を失わせる」との危機感を抱き、捕鯨問題を突き詰めていく。そして、重要な糸口の一つとして5年前にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した映画「ザ・コーヴ(入り江)」の舞台となった和歌山県の太地町。そこには今も国際的なエコテロリズムのシー・シェパードのスタッフが監視にやって来る。

映画「ザ・コーヴ」は、オーストラリアの国際司法裁判所への提訴にも影響を与えた作品。だが、日本からの公的な抗議・反論はなされないまま今日に至っている。八木監督は、日本の政府、国際会議関係者、太地町の人々を取材しつつ、映画「ザ・コーヴ」に対する疑問、問題点を追及する反証映画として「ビハインド・ザ・コーヴ」を提示してる。

南極鯨保護を謳うシー・シェパードは、小型鯨に属するイルカを太地町の入り江に追い込む漁法を“残酷”な方法と決めつけ、恣意的な編集方策で世界にアピールした。公開当初から指摘されてきた問題を、「ザ・コーヴ」の監督、出演者やシー・シェパードの担当者らに直接ぶつけてもマニアルに沿った応答が開き直りのように返って来る。髑髏(どくろ)のようなシンボルマークをデザインしたお揃いの黒色Tシャツを着て景色のいいビューポイントに集まり双眼鏡で監視する彼らには、観光客たちも近づけない。

 (C)2015 YAGI Film Inc.
(C)2015 YAGI Film Inc.

挑発的な手法で撮影された映画「ザ・コーヴ」に、太地町の人たちはほとんど応答せず、素顔は見せない。八木監督は太地町に4か月間暮らしながら町の人たちの意見や町長、教育長、校長らに捕鯨問題についての見解を丁寧に取材する。対話のない双方の見解と意見がパラレルに提示されているのは、本作のドキュメンタリー映画としての価値を高めている。

万葉集の時代から太地町の鯨漁捕鯨を書き記され、皮、油、骨、肉のすべてを無駄なく活かして来た鯨にまつわる日本独自の文化が育まれてきた。だが、国際会議ではほとんど顧みられず、諸外国からの偏見と制約にもほとんど反論しない日本。さらには、日本の商業捕鯨が、調査捕鯨に返還させていく環境問題とのかかわりがベトナム戦争との関係にまで遡っていく国際政治の凄まじさ。その謎解きのプロセスは見応えのあるミステリーの趣きさえ醸し出している。 【遠山清一】

監督:八木景子 2015年/日本/107分/日本語・英語字幕(バイリンガル上映)/英題:Behind “THE COVE”/16:9/ 配給:八木フィルム 2016年1月30日(土)よりK’s cinemaほか全国順次公開。
公式サイト http://behindthecove.com
Facebook https://www.facebook.com/behindthecove/

*AWARD* 2015年第39回モントリオール国際映画祭ドキュメンタリー部門正式エントリー。 2018年:International Filmmaker Festival of New York“Honorable Mention”(審査員特別賞)受賞。