離婚して20年間居場所も知らなかった母の死を知らされた温人(右)と兄の哲人 (C)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会
離婚して20年間、母親の居場所も知らなかった。その母・爽子が思い出の遊園地で下で発見されたと知らされた温人(右)と兄の哲人 (C)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会

幼なかった日の悲しい出来事。人によってはトラウマになり、ある人には悲しすぎるところは忘れて甘美に物語化していたり。それでも身体の傷と同じように、心の傷を見つめると重苦しさが疼く。離婚して自分たち兄弟を置いていった母親の死が、ミステリアスに展開し、その死の原因にある疑問を持った青年。彼にとっては知らなくてよかったことが、絡まった糸をほぐすようにあらわになっていく。幼かった日の出来事は、そこに留まって居るだけでは育たないものを見つめさせ、解き放たれた一歩を気づかせてくれる。

【あらすじ】
雪道を走る一台の乗用車。父親の瀬生藤二(松重 豊)が運転する車中には、妻の爽子(木村佳乃)と息子の哲人、温人の家族4人が乗っている。険悪な雰囲気の藤二は、爽子と口論になった挙句、車を止めると爽子は来たと反対方向へ歩き始めた。車を降りて母・爽子を追う弟の温人。だが、爽子は赤い手袋の片方を温人に渡し、「必ず取りに行くから」と言い残して家族の前から去っていった。兄の哲人は車の中からその光景を見ているだけだった。

20年後。成人した温人(中村倫也)は、「星ガ丘駅」の駅員として働いている。落とし物預かり係を担当し、落とし物が届けられると預かった日付のタグに落とし主を想像してイラストを描く。それは、「必ず取りに行く」と言った爽子を追憶するかのように。

星ガ丘駅の近くには、最後に家族4人で遊びに行った遊園地「星ガ丘ワンダーランド」があるが、閉園になったばかりだ。そこの大観覧車乗り場で爽子の変死体が発見された。バックには300万円もの現金が入ったまま。警察からの知らせを受けて温人が遺体安置所に行くと、再婚した爽子の家族が遺体に泣きすがっている。兄の哲人(新井浩文)は、父親と自分たち家族を棄てた爽子のことを憎んでいた。父はすでに他界しており、遺体安置所には行かず駐車場の車の中で温人を待っていた。

遊園地の帰り、母・爽子と別れたときも雪の日だった… (C)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会
遊園地の帰り、母・爽子と別れたときも雪の日だった… (C)2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会

温人は、警察の中尾刑事(嶋田久作)と大林刑事(杏)から自殺と聞かされていた。だが、二人の刑事には黙っていたが、温人は釈然としなかった。高所恐怖症だった爽子は、大観覧車にいっしょに乗ったこともなかった。数日後、駅の落とし物預かり所に爽子の娘・七海(佐々木 希)が訪ねてきた。再婚した爽子は星ガ丘で暮らしていたのだ。義理の姉弟になる七海と雄也(菅田将暉)は、以前から温人のことを知っていた。義理の姉弟の存在を知った温人は、自分の幼い日の思い出しかない母・爽子の“それから”を露わにしていく。

【見どころ・エピソード】
人気と演技力を併せ持つ出演陣もさることながら、CM界で数々受賞してきた長編映画初監督の柳沢 翔のファンタジックな映像表現は、なんともアーティスティックで印象的。
「星ガ丘駅」は設定上の駅ですが、なんとも幻想的な雰囲気を醸しています。木造の駅舎なので野外セットかと思いきや、千葉県市原市に在る小湊鉄道月崎駅でのロケーション。本作のファンタジックでミステリアスなムードを美しく盛り上げちます。

監督:柳沢 翔 2015年/日本/117分/映倫:G/ 配給:ファントム・フィルム 2016年3月5日(土)より全国ロードショー。
公式サイト http://hoshigaoka-movie.com
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