司祭の勧めで貧しい小作農家だが小学校に通えて喜ぶミネク少年 (C)1978 RAI-ITALNOLEGGIO CINEMATOGRAFICO - ISTITUTE LUCE Roma Italy
司祭の勧めで貧しい小作農家だが小学校に通えて喜ぶミネク少年 (C)1978 RAI-ITALNOLEGGIO CINEMATOGRAFICO – ISTITUTE LUCE Roma Italy

19世紀末の北イタリア・ベルガモ地方を舞台に、4家族の小作農家が借地を耕しながら貧しくとも素朴なカトリック信仰で粘り強く生きる日々を描いたエルマンノ・オルミ監督の代表作。日本での劇場公開は1979年、’90年に続いて今回が3回目。自然風景を絵画のように写し撮り、農作業や家畜の屠殺などリアリティあふれる生活感と俳優よりも土地の農民を出演させての演出は、どのように過酷な状況であっても“生きている”ことへの存在の尊さを感じさせてくれる。

【あらすじ】
バティスティ、ルンク未亡人、ブルナ、フィナールの4家族は、土地や住居、農具などのすべてを同じ地主から借り、長屋と共同作業場のある集落で生計を立てている。収穫の3分の2は地主に収めるため、どれだけ働いても貧しさからは抜け出せない。それでも、夕食後には4家族が一か所に集まり、誰かが語る物語を編み物をしたり子どもをあやしながら団らんの時を愉しみ、協調し合いながら暮らしている。

バティスティとバティスティーナ夫妻には、ミネクとその妹の2人の子持ち。もうすぐ3人目が生まれるが、教会の司祭はミネクを小学校に入れるよう勧める。片道6Kmの道のりと手助けがほしくなる時期だが、司祭の勧めに従順に従う。夫を亡くしたばかりのルンク未亡人は、町の人たちのシーツなどを洗濯しながら6人の子を養っている。長男が水車小屋での粉ひき作業に雇われ少しほっとしている。ブルナ一家には美しい娘マッダレーナがいて町の製糸工場で働いている。けちで知られるフィナールは、祭りの夜に金貨一枚を拾い一人ほくそ笑んでいる。

製糸工場で働くマッダレーナは、アンドレイ青年に見初められたが、道で挨拶するだけからの交際はなんとも慎ましく初々しい。そんな二人が両親に認められて結婚した。結婚式では、司祭が「明日二人はミラノへ行く。危険な旅が守られるように」と参列者に祈るよう求めた。何が危険なのか。何の目的でミラノに行くのか。船で運河伝いに1時間半ほどで着いたミラノ。ベルガモの農村とは大違いで、ミイラノ市内は騎馬隊などが、あちらこちらで起こるデモの制圧に荒々しく駆け回っている。二人は、閉鎖された道を迂回してマッダレーナの伯母が院長を務めている修道院を訪ねた。

結婚したマッダレーナとアンドレイは貧しくとも現実的な生き方を予感させる  (C)1978 RAI-ITALNOLEGGIO CINEMATOGRAFICO - ISTITUTE LUCE Roma Italy
結婚したマッダレーナとアンドレイは貧しくとも現実的な生き方を予感させる  (C)1978 RAI-ITALNOLEGGIO CINEMATOGRAFICO – ISTITUTE LUCE Roma Italy

小学校でいきいき勉強するミネク。バティスティーナが子どもを産んだ日、ミネクは学校の石段で左足の木靴の底が割れてしまった。片方裸足で6km歩いてきたミネクの身体は冷え切っていた。バティスティは、妻を心配させまいと木靴が割れたことはミネクに口止めし、生まれた赤ちゃんを見せに連れて行く。その夜、川辺のポプラ並木から1本切り倒し、ミネクの木靴を作り上げたバティスティ。だが、このことがバティスティ一家の変えることになる…。

みどころ・エピソード
名作とも謳われる新写実主義の流れをくむ美しい風景のと小作農家の生活感をリアルに伝える映像美は、深く印象に残る。小作農家の生活描写で丁寧に描かれているのは、カトリック・キリスト教への農民らの素朴な信仰心。小作農の家を回っては聖母マリア像の前で祈りの格好をする物乞いに、それぞれの家が食べ物を分け与えている。その物乞いを笑う我が子をたしなめて「貧しいものほど天国に近いのよ」教える母親。妊娠しているバティスティーナは、自分たちの飼っている牛が倒れ、獣医に「早く殺して肉を売りなさい」と見放されても村のチャペルへ祈りに行き小川の水を汲んできて祈りながら牛に飲ませる。翌日、牛が立っているのを見た子どもたちは「奇跡だ」と素直に大喜びする。ミネクにも「学校へ行く前に必ずお祈りしなさい」と諭す母親の姿には、生活と信仰の原風景が確かなものとして描かれている。
バックグランドに流される「無伴奏チェロ組曲第三番」や「フーガ ト短調“小フーガ”」などバッハの楽曲が農民らの姿に血の通った温もりを与えていて印象的。とりわけ、エンディングで使われている「カンタータ第156番『わが片足すでに墓穴に入りぬ」は、その曲の美しさとともに曲名から窺われる“まだ死してはいない。主とともに生きている”という個人の尊厳と人生への不断の意志を感じる。 【遠山清一】

監督:エルマンノ・オルミ 1978年/イタリア/187分/スクリーン:スタンダード/原題:L’albero degli Zoccoli 英題(米国):The Tree of Wooden Clogs 配給:ザジフィルムズ 2016年3月26日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。
公式サイト http://www.zaziefilms.com/kigutsu/
Facebook https://www.facebook.com/kigutsu/

1978年:第31回 カンヌ国際映画祭パルム・ドール、エキュメニカル審査委員賞受賞。セザール賞外国映画賞受賞。 1979年:ニューヨーク批評家協会外国映画賞受賞。ダヴィッド・ディロナッティロ賞作品賞受賞。 1980年:第3回日本アカデミー賞優秀外国作品賞受賞。キネマ旬報外国映画ベストテン第2位作品ほか多数受賞作品。