夜のしじまに満月の月明かり、一面の銀世界に誘われナポリ出身の兵士はカンツォーネを歌う
夜のしじまに満月の月明かり、一面の銀世界に誘われナポリ出身の兵士はカンツォーネを歌う

大自然への畏敬と人間の尊厳を見つめるエルマンノ・オルミ監督が、第一世界大戦勃発からちょうど100年に当たる2014年に、人間同士が殺し合わねばならない戦争の理不尽さを描いた最新作。肉弾戦の凄惨なシーンはなく、どのようあに理不尽な命令であっても、一度発せられたら可能性の低い行動でも遂行しなければならない愚かしさと人間の生命が軽んじられる戦争の現実。雪に覆われた大自然の静寂な情景に平和を希求する祈りが聴こえてくる。

【あらすじ】
1917年冬、第一世界大戦最中のイタリア・アルプスのアジアーゴ高原。イタリアとオーストリア両国軍は、雪山で膠着状態の塹壕戦で対峙していた。夜のしじまにうかぶ満月の明かり。ナポリ出身の兵士(アンドレア・ディ・マリア)が、立ち上がってカンツォーネ「泣かないお前」を歌いだした。敵オーストリアの狙撃兵はその歌声に聞きほれ、声援を送る。それに応えて「光さす窓辺」を歌う兵士。戦火の中で両軍の兵士たちは、しばし故郷の家族や恋人のことを思いみる。いつ狙撃兵に狙い撃ちされ、砲弾に砕き散るかもしれない兵士たちの心の慰めと励ましは、運ばれてくる食料と故郷からの郵便だけ…。

後方の平地に置かれた司令部から命令を携えて、少佐(クラウディオ・サンタマリア)とまだ少年のような面立ちをした新任の若い中尉(アレッサンドロ・スペルドゥーティ)が前線の塹壕にやって来た。命令の内容は、通信が傍受されているため新たな通信ケーブルを敷けという。塹壕で指揮を執ってきた大尉(フランチェスコ・フォルミケッティ)は、月明かりのなか兵士を出せば敵の狙撃兵の餌食になるだけだと抗議するが受け入れられない。仕方なく、一人の兵士を送り出すが、案の定、数歩先のところで狙撃され息絶えた。

それ以上続けても無意味ななことを知っている大尉は、「私は尊厳を取り戻す」と言って、その場で軍位を返上してしまった。少佐は、新任したばかりで経験のない中尉に後任を命じる。

無謀な命令はまだ効力を有している。ケーブルを持って外へ出れば、ほぼ死を覚悟しなければならない。重苦しい空気の中、順次選ばれ命じられる兵士たち。一面銀世界の中、野ウサギやキツネの飛び跳ねる姿が美しい。やがて敵の迫撃弾が激しく打ち込まれ、景色は一変する…。

唐突に、塹壕を指揮する軍務に任じられた若い中尉は、無謀な命令の執行に苦悩する
唐突に、塹壕を指揮する軍務に任じられた若い中尉は、無謀な命令の執行に苦悩する

【みどころ・エピソード】
夜のしじまに満月の月明かりに浮かぶアルプスと一面の銀世界が美しい。一方で、セピアのような塹壕のなかと人間の生命が一つの部品のように使われ、殺されていいく戦場での虚しさが悲しいまでに寒々しい。

本作の公式ウェブサイトにも紹介されているが、オルミ監督は第一次世界大戦に従軍した父親から戦争の悲惨さと苦悩よくを聞かされてきた。父親の世代の多くは他界してるが、彼らが残した言葉や手紙は遺されている、オルミ監督はそれらの証言と記録の事実を誇張することなく、美談にすることもなく、映像化している。美しい自然のなかに描かれていく人間の愚かさと罪深さは、“赦す心”をもった人間の存在と本質を清かな静寂の中で問いかけている。 【遠山清一】

監督:エルマンノ・オルミ 2014年/イタリア/76分/映倫:G/サイズ=1:1.85/原題:Torneranno i prati 配給:チャイルド・フィルム、ムヴィオラ 2016年4月23日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。
公式サイト http://www.moviola.jp/midori/
Facebook https://www.facebook.com/olmi.midori/

*AWARD*
第65回ベルリン国際映画祭特別招待作品。