2014年03月30日号 4・5面

1995年、公証役場事務局長の仮谷清志さん(当時68)が拉致殺害された事件など3件に関与したとして、逮捕監禁罪などに問われたオウム真理教元幹部の平田信被告(48)に対し、東京地裁は3月7日、懲役9年(求刑懲役12年)の実刑判決を言い渡した。平田被告と同じ3事件で起訴された元信者に対する確定判決の懲役6年と比べると重い量刑だ。斉藤啓昭裁判長は「自ら出頭したが、17年近い長期の逃亡が社会に与えた影響は軽視できず、遅きに失した」との判断を示した。
今回は一連のオウム裁判で初の裁判員裁判だった。この裁判で気になるのは、裁判員の負担を考慮して短期間で決着させようとしたためか、事件の背景にあるカルト教団の体質に迫る機会を逃してしまったことだ。平田被告は、事前に計画を知らされていなかった、と消極的関与を強調。事件の現場で目的も聞かず質問もしなかったのは、それが「教団の体質」だったからだと証言した。だが判決は、その供述を「不自然な弁解」と見て重視しなかった。
平田被告が言う「教団の体質」とは、グルと呼ばれた教祖を絶対視し、上からの指示には疑問をさしはさむことなどできないという破壊的カルト特有のマインドコントロール体質のことだ。一連のオウム裁判では、犯行に手を染めた元信者たちの中で、その縛りからさめて罪を悔いる者と、あくまでもグルへの忠誠を貫こうとする者に分かれ、マインドコントロールの実態の片鱗が垣間見えた。
しかし、この「マインドコントロール」という概念を心理メカニズムのひとつとして認めるか否かは、心理学者の間でも見解が分かれる。破壊的カルトの実態を知らない学者はマインドコントロールの存在を認めない傾向がある。このため日本の裁判所では、カルト関係の裁判で元信者の行動がマインドコントロールによるものであったと証言しても、なかなか採用されない。
「オウム真理教家族の会」は、オウム信者たちがマインドコントロールを受けていたことが事件の背景にあるとして、実行犯らが相応の償いをすることは当然としながらも、信者らをだまして犯行に及ばせた麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚と、だまされてサリン事件を起こした実行犯らが、同じ死刑判決では妥当とは言えないと訴え続けている。
マインドコントロールによってだまされたあげく、上から言われるままに非合法活動にも手を染めてしまう―そんな落とし穴は、案外私たちの身近なところにもある。