映画「古都」--伝統美に新たな息を吹き込む二つの古都に生きる母子の心模様
川端康成の代表作の一つでノーベル文学賞の受賞対象作にもなった長編小説『古都』(1962年6月25日初版発刊)が原作だが、時代設定を現代に移して原作の主人公・千重子と双子の妹・苗子の“その後”をオリジナルストーリーに脚本化した意欲的現代版「古都」として映画化している。失われゆく日本の伝統を書き残しておきたいと創作した川端文学の審美的性を漂わせながらも、伝統を受け継ぐ務めの重みと新たな息を吹き込み後代へつなぎたいと願う意志の気高さが心地よい。
【あらすじ】
京都室町に先祖代々続く佐田呉服店。主人の竜介(伊原剛志)と妻・千重子(松雪泰子)が、先代の父・太吉郎(奥田瑛二)から老舗を継いで20年になる。昔からの老舗の暮らしを守り続けてきた千恵子。だが、世の中の移り変わりとともに京の街の様子も変わってきた。西陣から機織りの音は消え、古からの付き合いの職人たちが次々と廃業していく。
竜介と千重子のひとり娘・舞(橋本 愛)は大学の卒業が近い。京都から離れたことがなく、就活も京都にある一流商社の面接を受けている。だが、手応えは薄い。日本舞踊、書道、茶道と老舗のお嬢さんとしてのたしなみは修めてきたが、自分自身、ほんとうは何がしたいのか見つけられないでいる。
千重子には、生き別れになった双子の妹がいた。名前は田中苗子(松雪泰子/二役)、京都のはずれの北山杉の里で林業を営んでいる。ひとり娘の結衣(成海璃子)は、絵画の勉強でパリに留学したものの現実は厳しい。結衣もまた、ほんとうは何を書きたいのかが分からなくなり、葛藤の日々を送っていた。
千重子は、店の前に捨てられていたが、太吉郎と亡くなった妻・しげには「あなたは、捨てられていたんではない。あまりに可愛いのでさらってきて育てたんや」と言い聞かされてきた。温かくいつくしんで育ててくれた養父母が喜ぶことを望む千恵子にとって、店を継ぐことは当然のことと思っていた。そんなことを思っていたのと同じ年頃になった舞に、千重子は「この町で育ったということは、宿命みたいなもんがある気がしてな」と語る。その言葉は、舞にとっても重いものを感じさせたきた。
就活の面接で舞が思う様に答えられなかったのを知った千恵子は、竜介の父親などに口利きを頼み、何とか内定通知を得た。だが、それを察知した舞は、千重子にいら立ちをぶつけ隠居している太吉郎の家へ駆け込む。「無理に継がんでもええんちゃうか」と微笑んで太吉郎が舞に語った言葉は、妻のしげがかつて千恵子に語っていた言葉でもあった。
苗子は、結衣とのスカイプでの会話や様子が気になっていた。パリを訪ねた苗子は、数日一緒に過ごし、北山杉の模様が織り込まれた帯にまつわる思い出を話しながら結衣に手渡した。一方、書道の先生からパリでの個展に同行を依頼された舞は、パリで日本舞踊を披露することになった。千重子は、北山杉の模様が織り込まれた帯を舞に手渡してパリへ送り出す。双子の母親から日本の伝統美と心を、それぞれに受け継いだ娘たち。京都では出会うことのなかった娘たち二人だが、フランスの古都・パリでそれぞれの人生が触れ合う…。
【みどころ・エピソード】
京都を日本の心の“ふるさと”と捉えて京の自然美、伝統美を守り受け継いできて人々を、四季折々の暮らしを背景に丁寧に描いた川端康成の同名小説が原作。京の名所旧跡を幾度も訪ねていた川端康成が、外からうわべだけを見つめているうち失われゆくものを遺したいと筆を執った作品。京の名所や各地での行事を舞台に、養父母を思い純粋に生きようとする千恵子の周りに起こるままならぬ世情に押されて歩む人生。これまで岩下志麻(1963年)と山口百恵(1980年)が主演して2度映画化されている。米国ハリウッドで映画作りを学んできた若手のYuki Saito監督による今回の映画化は、伝統を受け継ぎ“なにを作りたいのか”“なにをしたいのか”というテーマを現代に移して脚色・演出している。京都でのオールロケと女優・松雪泰子の優美な立ち居振る舞いに具現化された川端文学の幽玄な香り。物語の基軸が原作の“その後”に据えられており、原作を知らなくても川端作品の”こころ”は愉しめる映画に仕上げられている。 【遠山清一】
監督:Yuki Saito 2016年/日本/117分/映倫:G/ 配給:DLE 2016年11月26日(土)より京都先行上映、12月3日(土)より全国順次公開。
公式サイト http://koto-movie.jp
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*AWARD*
2016年:第8回京都ヒストリカ国際映画祭特別招待作品。