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 昨年8月にいのちのことば社から出版された『“育つ”こと“育てる”こと−子どもの心に寄りそって』の著者である田中哲氏(東京都立小児総合医療センター副委員長、子ども家族支援部門長)による出版記念講演会が、CLC BOOKS御茶ノ水店の主催により、2月18日、東京・千代田区のお茶の水クリスチャン・センターを会場に行われた。講演題は「教会は子どもの心の居場所になりうるか」。子どもたちを取り巻く環境の変化と厳しさが取り沙汰されて久しいなか、教会が今まで培い、大事にしてきたものを用いて、いかに地域社会の中でその役割を果たしていくことができるかを考え、問いかけた。講演会は、50人の定員が1週間前には予約で満席となる盛況で、この問題への関心の高さがうかがわれた。

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 著書の中で田中氏は、近年よく耳にするようになった「発達障害」「愛着障害」を、「脳にどんな障害があるのか、どういう症状があるのかという問題ではなく、心の骨組みの育ちの問題として」、つまり心はいかに「育つか」「育てられるか」という観点からとらえ直した。そこで語られた「心の育ち」の3つの骨組みである「社会性と対人行動」「自尊感情と自己受容」「自己統制による心理的な安定」の中で、今回は「自尊感情(自尊感覚)」に注目した。

 講演の冒頭で、イギリスの小児科医であるドナルド・ウィニコットがその著書の中で言った「すること(doing)」に対する「在ること(beingビーイング)」に言及したが、この「自尊感覚」が「ビーイング」の問題である。 人間は生まれてから約1年間は何もできず、親にまったく依存する状態に置かれる。この時育まれるものが「親密さへの信頼(愛されていることへの信頼)」「自己価値観(自分は良いものであることの確信)」「自己抑制(生きていくために必要な枠組み)」であり、その上に先の3つの骨組みが組まれていく。

 「心の育ちの3つの骨組みは、すべて完全であることなどない。特に『自尊感覚』はビーイングの問題であるだけに、表に現れない。しかし、うまくいかないと信号を発するようになる。子どもが居場所を失ったことによって色々な歪みが出ている」。居場所は、自分が自分のままでいていい場所であり、自分を肯定できる場所である。その居場所をどこに求めるか。田中氏は、その自尊感覚を育む居場所として、家庭とともにコミュニティーを考える。

 昔は多様なコミュニティーがあったが、それがなくなってきた。子どもにとっては、はみ出したら叱ってくれる場所であり、自分を認めてくれる「大切な人」がいる場所でもある。今は学校が子供のコミュニティーを独占している。「家庭と学校が子どもにとっての居場所のすべてとなっている中で、教会がもう一つの居場所となるなら、子どもたちはもっと楽になるはず」と指摘し、共同体としての教会が伝統的に共有してきたものとして、次の3点を挙げた。

 ①「確かな人間観」−それがあるから、クリスチャンでない人も子どもをミッションスクールに入れようとする。

 ②「子どもへのミッション」−教会は子どもの存在を一人の人格として考え大事にしてきた。それが当たり前ではなかった昔から。

 ③「地域コミュニティーとの関係」−教会は街の真ん中で開かれている。コミュニティーに貢献する。

 そして、「これらを持っている教会は、社会に対してできることがあるはず」として、以下の可能性を示唆した。

 ▽子供の居場所作り:場所と時間を提供すれば居場所になるわけではない。大事なことはそこに誰がいるか、子どものビーイングをどう保証してあげられるかということ。自分にとって大事な大人が家の外にいて、待っていてくれる場所。子どもは自分で選んでそこに行くことができるということになれば、そこが子どもにとっての居場所になる。

 ▽子どもを託すことができるコミュニティー:人に預けなければ、自分だけでは子育てはできない。あそこなら安心して預けられると思ってもらえる場所になる。信頼感をどうやって作るか

 ▽共同の「親」としての支援:自分がかつていた教会にも子どものいる家庭が複数あり、日曜日は共同子育て状態だった。

 ▽凝縮された社会を体験する場:子育てサークルなど、地域にいかに貢献するか。コミュニテイの中に子どもが生まれる感覚で、一緒に子どもを見ること。教会の中だけではなく、地域の中にそれを広げて開いて行くことができれば、教会は地域との結びつきがもっと強くなる。教会は、家庭にはいない、いろんな人がいる凝縮された社会。子どもにとって自分が安心していられ、間違いなく自分を受け入れてくれる場所となれば、教会員以外の子供も一緒に育って行くコミュニティーとなりうる。

2017年04月09日号 01面電子版