政治において教会が果たすべき役割は何か。「国家や政治の課題を、神学的に研究すること」を目的とした「教会と政治」フォーラムの発会式が3月31日、東京・千代田区神田駿河台のお茶の水クリスチャン・センターで開催された。座長の山口陽一氏(東京基督教大学教授)が「日本における教会と政治─ラフ・スケッチ」と題して講演した。【中田 朗】

山口氏は、「神学的に『教会と政治』について検討し、現在の課題の中で教会の実践に寄与する学びをしたい」と抱負を語った後、聖書に立つ教会として考えたいと、「上に立つ権威に従う」ことを教えるローマ13章を取り上げた。それは「神が立てられた権威」であり、神に従う「霊的な礼拝の生活」の一つである。教会は信仰をもって国家に従い、同じ信仰によって国家に抵抗する。カルヴァンも「主が常軌を逸した王たちの血塗られた王笏を砕き去って耐え難き支配を覆したもう」ことを述べて、「君主たちは聴いて恐れよ」と言った。カルヴァンに抵抗権を学んだ渡辺信夫(日キ教会・東京告白教会前牧師)は、教会が単なる政治運動をするのではなく「抵抗の根をもつこと、また根を養うこと」を訴えた。DSC_0017
これに傾聴すべきという山口氏は、ザビエルから戦中、戦後に至るまでの日本における「教会と政治」を素描し、戦後、安保闘争の時代に主流派の教会が政治とどう向き合おうとしたかを学びなおしたいと、山本和『国家と宗教』、北森嘉蔵『救済の論理』、渡辺善太『教会と政治』などの論を紹介した。
最後に、ローマ13章からフォーラムの方向性に言及し、上に立つ権威は「あなたに益を与えるための、神のしもべ」(4節)であり、「人が国のためにある」のではなく「国が人のためにある」。これが聖書に立つ神学において大前提であるとした。そして現在の状況にふれ、「日本における政教分離は国家神道と政治の分離を焦点とするが、日本会議や神道政治連盟が目指す明治憲法体制の復元は、国家的な偶像礼拝につながりかねない。これを許さないことは、キリスト者の市民としての役割だけでなく、日本の教会の大きな役割だ」と述べた。「ことは急を要するが、私たちは『日本における教会と政治』を神学的に検討し、個々の課題に対して、キリスト教会にふさわしい判断と対応ができるよう取り組みたい」と結んだ。
40人ほどの参加者との間で盛んな質疑応答と意見交換があった。ある女性は、国家的偶像礼拝を避け基本的人権を守ることが大切と、考えを整理できたと感想をのべた。愛国的なクリスチャンもいるがという質問に対しては、「いつの時代でも同じようなことが起こるので、神礼拝と国家儀礼を共存させた戦時下の日本的キリスト教に学ぶべきことがある」、「キリスト者と政治」ではなく「教会と政治」にしたことについては、「戦後の日本で求められるのは個の確立だけでなく教会の確立であり、政治に対する教会の役割を果たしたい」と山口氏は応答した。政治のため祈りの時をもって終わったのも、このフォーラムの姿勢をよく表していた。DSC_0028
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同会の目的は、①日本における国家や政治と教会の関わりを、聖書と神学の視点から研究する、②現在の日本の状況を踏まえ、教会がこの時代に担うべき神学的課題として整理する、③整理された神学的課題を広く一般に提供する。
会の運営のために世話人会を置く。座長は山口氏で、世話人は朝岡勝(同盟基督・徳丸町キリスト教会牧師)、安海和宣(東京めぐみ教会牧師)、星出卓也(長老教会・西武柳沢キリスト教会牧師)、城倉啓(バプ連盟・泉バプテスト教会牧師)、山崎龍一(お茶の水クリスチャン・センター常務理事)、柴田智悦(同盟基督・横浜上野町教会牧師)、井樋桂子(バプ連盟・調布南キリスト教会員)の各氏。呼びかけ人は大嶋重徳(キリスト者学生会総主事)、加藤光行(JECA・栄聖書教会牧師)の各氏ら。事務所の所在地は、東京めぐみ教会(〒169-0075東京・新宿区高田馬場4ノ32ノ6)。
当面は、2か月に1回、勉強会を開く。内容は参加者の意見を聞きながら、世話人で決定し運営を進める。勉強会の内容は、目的に従って整理し、広く社会へ寄与するために出版、ウェブサイトなどで公開。勉強会は原則、会員外へも公開する。運営は活動献金・寄付などで賄う。

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4月16日号紙面