©les films du losange
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ノルウェーのバストイ島少年矯正施設で、1917年に実際に起きた少年たちの反乱事件が題材になり練り上げられた秀作。オスロ市から南東へ75km離れたこの孤島は、1900年から70年まで実在した少年矯正施設。ノルウェーでもあまり知られていない実話を基に、教育という名のもとに権力で抑圧された人間の心は猛り立つことを、北欧の海の厳しい情景を心象風景にみごとに描いている。どんよりした曇り空の毎日。真冬ともなれば氷が本土と島との間を張りつめ、トナカイが渡ってくる。その凛とした空気感と厳しい自然のなかに、希望を象徴するかのようなさやかな光の演出が印象的だ。

警察の船がバストイ島の桟橋に着き、エーリング(ベンヤミン・ヘールスター)とイーヴァルの2人の少年が送還されてきた。まず名前が取り上げられる。身体が大きく漁師をしていたエーリングは’C-19’に変えられた。私物を取り上げられ、私服は脱がされて矯正学校の制服を渡され裸のまま収容生たちの前に通って整列させられる。刑務所に収監されても仕方のない罪を犯したエーリングには、近く卒院が決まっている優等生のオーラヴ/C-1(トロン・ニルセン)がお目付け役に任命された。

何に対しても反抗的な態度をとるエーリング。さっそく海岸のボート小屋に目をつけ、脱走する計画に思いを巡らす。卒院を前にもめ事を避けながら規則を守らせようとするオーラヴとも、飼いならされた何かのように思えて反りが合わない。C棟の寮長ブローテン(クリストッフェル・ヨーネル)は、理不尽な暴力で収容生たちを押さえつけ、恐れられていた。エーリングは、ブローテンにも反抗的な態度をとり、同じ寮の収容生とも喧嘩沙汰を起こしてしまい、仲裁に入ったオーラヴを巻き込んで2人とも重労働の懲罰を課せられた。森の木の伐採、バケツに入った魚の残飯しか与えられない惨めな日々。だが2人は、その苦境を共有しながら互いの思いを語り合えていく。エーリングが、海で体験した銛(もり)を3本打ちこまれても何時間も喘ぎながら泳ぐ鯨の話を物語にしたい夢を持っていることも。

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重労働の懲罰を解かれた2人。やがて大きな事件に遭遇する。イーヴァルが海に入水して自死した。寮長のブローテンに性的虐待を受け続け、イーヴァルが苦しんでいたことは寮生みんなが知っている公然の秘密。だが院長は、問題化するのを避けて脱走の失敗による事故死として処理した。躊躇しながらも院長に事実を話しにいったオーラヴは、逆に「大ウソつきめ」をののしられて殴られる。だが、寮長のブローテンは、荷物をもって島を去って行った。その姿を、ブーイングして見送る収容生たち。
教会と文部省の担当者たちとの面接を終え、6年間収容されていたオーラヴの卒院する日が来た。だが同じ日、解雇されたと思っていた寮長のブローテンが島に戻って来た。理不尽と抑圧に耐えてきたオーラヴの表情が変わった。。。

20世紀初頭、バストイ島少年矯正施設には8歳から18歳までの’問題児’が収容されていた。当時は、’問題児’に対して、体罰を与えるよりも、彼らに合った環境の中で成長させて、早期の矯正によって未来の犯罪を防止しようという考え方が主流になりつつあった。バストイ島少年矯正施設は、その思潮のモデル施設として注目されていた。教会と文部省による監督・運営。だが現場の施設では、理念とは異なり旧態依然とした規則の順守強要と戒律的な信仰理解にたち権威主義的姿勢で少年たちを押さえつけていく。院長が寮長のブローテンに、「愛のない体罰は苦痛を与えるだけだ」と言った言葉が印象的だ。愛と公正性もなく理不尽に少年たちの心の自由を抑圧されたその苦痛は、’孤島の王’たちの自由意志を求める自尊心を呼び覚まさせる。

監督:マリウス・ホルスト 2010年/ノルウェー=フランス=スウェーデン=ポーランド/117分/原題:Kongen av Bastoy 配給:アルシネテラン 2012年4月28日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか順次全国公開

公式サイト:http://www.alcine-terran.com/kotou/