映画「クロス」――人はみな自分の欲に引かれ、誘惑される
「愛・嫉妬・快楽・罪 欲望の十字架から逃れられない」とのキャッチコピーが、“クロス”というタイトルとともに気にかかる。“人間の欲望、嫉妬の渦、そして真の贖罪とは何かを問いかける”この作品は、聖書の「人はそれぞれ自分の欲に引かれ、おびき寄せられて、誘惑されるのです。欲がはらむと罪を生み、罪が熟すると死を生みます」(ヤコブ1・14~15)の言葉がリアルに息づいている。
【あらすじ】
主人公の竹上真理子(紺野千春)は、美術教師をしていたころ妻のいる男性と不倫関係に陥り殺人事件を起こした。刑期は終えたが、重い罪悪感を胸に歯科医院の受付をしながらひっそりと暮らしている。ある日、案内板に小犬の里親募集チラシを見て応募した。
募集したのは、平山孝史(山中聡)、妻の知佳(Sharo)、娘の聖羅(前野えま)の3人家族。可愛がっていた聖羅には内緒で引き渡したため、愛犬にお別れもしていないとふさぎ込んでいる。孝史は、仕方なく真理子に頼み込み休日一日だけ聖羅と愛犬とのお別れをさせてもらう。知佳は、真理子に接する孝史の雰囲気に何かを感じ取る。
そんなとき、週刊ボックスの記者・柳田雄二(斎藤工)が知佳を取材し、高校時代、“集団リンチ殺人事件”の犯人グループの1人だったことを仮名記事にされる。孝史には隠していたため二人の仲も気まずくなる。だが、知佳は、自分が事件を起こしたころに世間を騒がせた“赤羽不倫殺人事件”の犯人が真理子であることに気づき、執拗に調べ始める…。
【見どころ・エピソード】
過去の事件から逃れ、手段を選ばず絵に描いたような幸せな家庭をつくろうとする知佳。「お前には幸せになることも、自殺する権利もない」と身内に言われ続け、刑期では贖われない重いものを引きずる真理子。それぞれに想う贖罪は、本当の解なのだろうか。
ただひとつ、ひとりで生きようとする真理子も心の奥底には愛されたい渇きを覗かせ、知佳は“家族”に餓え渇きを抱いている。自分の心の色合いを探す二人が、共に“寄り添って歩んでくれる”存在の必要を隠さない。エンドロール盲目のアーティスト木下航志が歌う主題歌「Just a Closer Walk with Thee~輝く明日へ僕は歩く~」が、黒人霊歌の原詩とともに海辺のきらめきのように光の温もりを感じさせてくれる。 【遠山清一】
監督:奥山和由・釘宮慎治 2017年/日本/89分/ 配給:太秦 2017年7月1日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト http://www.cross2017.com
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