©東海テレビ放送
安田好弘弁護士 ©東海テレビ放送

心に植え付けられたイメージは一人歩きする。だから怖い。ニュース報道や論評・解説する立場の人たちが、その怖さを軽んじる時、責任を担いきれない悲劇と苦痛を当事者に与えかねない。世間の衆目を集めた大事件の犯人として検挙され人たちの報道をとおして一般の人たちは、事件の経緯や犯行に及んださまざまな情報を繰り返し見聞し記憶に刻まれていく。死刑確実と風聞が流れるような犯人の弁護人に、なかなか引き受け手はいないといわれる。安田好弘弁護士は、’悪魔の弁護人”人殺しを弁護する人でなし’と、いわゆる世間から言われ、さまざまなバッシングを受けている。そのレッテルにイメージ着けられる前に、安田弁護士が関わっている事件と死刑判決を受けた’犯人’たちの主張と心情は何なのか。事実は何かを追及していく’弁護士の仕事’を丁寧に追いながら、イメージと思い込みの’怖さ’を実証しているドキュメンタリー映画。

安田弁護士が、このドキュメンタリーの取材を受けている時点で担当している事件は54件、そのうち坂口弘(あさま山荘事件)、麻原彰晃(オウム真理教事件)、林眞須美(和歌山毒カレー事件)、木村修二(名古屋女子大生誘拐事件)、元少年(光市母子殺害事件)ほか死刑事件が8件。どの事件、犯人像にも極悪人のイメージがついて回る。

だが、安田弁護士は被告人が「していない」、「そこは違う」、「無罪です」と心情・主張を吐露すれば、その主張を丁寧に実験し、実証できるよう再検証していく。「事実を出して初めて本当の反省と贖罪が生まれる。どうしたら同じことを繰り返さずに済むのか、それには、まず真実を究明しなければならない」と。

©東海テレビ放送
©東海テレビ放送

安田弁護士への’反発”反感’は、流布されるイメージに留まらず、何か権力的な背景を持った強制的な執行さえ引き起こされる。自身が検挙された状況も克明に記録されている。

そうした権力的背景に一市民はある主の慄きを暗黙の裡に感じさせられている。証拠・証言の再検証を緻密に行い、検察・弁護の双方から事実性を冷徹に議論していく場所が、本来の裁判なのだろう。一般市民による裁判員制度が実施されて3年。昨年の調査では検察の求刑に対する判決の量刑割合は、全体平均で76.8%と従来より「やや重め」の傾向にある。有罪無罪の判断に留まらず、量刑まで裁量する日本の裁判員制度。人を裁くことの重さ、正義とはを裁判をとおして自らに問うことの厳しさを、真摯に問いかけられてくる。

事件の被告たちのイメージも、安田弁護士に対するイメージも、マスコミ報道の影響によるところが多分にあることだろう。そのマスコミの立場にある東海テレビ放送が製作・配給しているところにある種の安堵感を覚えさせられる。ただ、事件の真相を、そこから真の贖罪へのアプローチを求めていく弁護人。マスコミ報道では、知りえない安田弁護士の実像に迫っていく。

監督:齊藤潤一 プロデューサー阿武野勝彦 2012年/日本/97分/ 配給:東海テレビ放送 2012年6月30日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。

公式サイト:http://shikeibengonin.jp