Movie「チキンとプラム ~あるバイオリン弾き、最後の夢~」--ユーモアと美しさに心動かされる愛の物語
絵本のようなメルヘンチックな背景から天才的なヴァイオリニスト、ナセル・アリ(マチュー・アマルリック)の物語へと誘い込まれていく。オープニングのエキゾチックなシーンからハッピーなストーリーをイメージしがちだが、実らなかった恋のお話し。しかも、ナセルは天才的で自分のことしか考えられないような芸術家肌のヴァイオニスト。彼の傷心に傾きかけた気持ちが、あまりの自分勝手さに腹立たしさを覚えさせられる。それだけにラストへの展開はお見事。ナセルの心の振るえと共振していたヴァイオリンの響きが、彼を取り巻いていた人たちの心と感動を奏でている。
命より大切にしていたヴァイオリンを妻ファランギース(マリア・デ・メディロス)に叩き壊されたナセルは、名器ストラディバリウスを売っているというテヘランの店を訪ねる。だが、その音色は壊されたヴァイオリンに遠く及ばない。
そのため、ナセルは死ぬことにした。
そう宣言して、自分のベッドに横たわり死が訪れるのを待つことにしたナセル。第1日目。
ナセルは、2日目もベッドに横たわったまま、死が訪れるのを待つという。教師をしている妻ファランギースも気になり、ナセルの弟アブディ(エリック・カラバカ)に相談する。だが、弟が母親に苦労を掛けた昔話から兄弟げんかへと発展。そうして、ファランギースが大好物のチキンとプラム煮を作っても食べずに3日目も過ぎた。4日目からは、ヴァイオリンの師匠(ティディエ・フラマン)に言われた修業時代の言葉、そのころ一目見て恋したイラーヌ(グルシフテ・ファラハニ)との悲恋など自分の人生を脳裏に思い浮かべながら、天才と言われるまでに美しい音色を響かせた秘密が説きほぐされていく。
原作は、マルジャン・サトラピ監督の同名のマンガ。原作者本人が共同監督のヴァンサン・パロノーと脚本を書いている。一つ間違えると自分勝手で妻を愛さない嫌味な芸術家に描かれてしまいそうなナセル・アリの物語を、大人のファンタジーとしてマンガのユーモラスな味付けを愉しめる映画にしている。
マチュー・アマルリックの卓越した演技と夫への憧れを内に秘めながらキツイ態度をとってしまうマリア・デ・メディロスの汚れ役に徹した演技。そして悲恋のヒロインを演じたグルシフテ・ファラハニの美しさ。ユーモアと美しさに心動かされる、映画らしい愛の物語だ。
脚本・監督:マルジャン・サトラピ 、ヴァンサン・パロノー 2011年/フラン=ドイツ=ベルギー/92分/映倫:PG12/原題:Poulet aux prunes 配給:ギャガ 2012年11月10日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、梅田ガーデンシネマほか全国順次ロードショー。