8月6日号紙面:依存症に取り組むティーンチャレンジ木崎氏講演 自立こそ解決のカギ
様々な依存症が社会的な問題として大きくなる中、依存症で苦しむ人の社会復帰やその家族をサポートするクリスチャン団体「ティーンチャレンジ」の働きが注目されている。1958年にデイビッド・ウィルカーソン氏によりニューヨークで始まり、日本では2005年に日本支部(ティーンチャレンジ・ジャパン)として創設された。その総責任者の木崎智之氏が、7月8日、埼玉県久喜市内で「依存症についての特別講演会~ご家族、関係者、関心のある方々のための支援セミナー~」(東埼玉バプテスト教会主催)を行った。当日は、依存症の当事者も含め、他教会関係者が大半を占め、問題に対する関心の高さがうかがわれた。
木崎氏は「依存症は深刻な問題だが、心に余裕をもって、できれば少し楽しみながら取り組んだほうがうまくいく」と前置きして講演を始めた。
依存症とは、その人の人生を支配してしまうものだと言う。薬物、ギャンブル、アルコールの「三大依存症」は認識しやすいが、その他にも最近は、ゲーム、買い物、ポルノなどの他、スポーツ、勉強、仕事など、一般的に良いこと必要なことと考えられているものでも、その使い方によっては依存症になりうる。量や頻度が問題なのではなく、家庭や社会生活に支障が出てきたら依存症だと考えるべき。
依存症には3種類がある。▽物質依存=体内に化学薬品を入れることで、気分を高揚させる。ドラッグやアルコールなど。▽行動依存=特定の行動をすることで興奮、満足感を得る。ギャンブルや万引きなど。▽人間関係依存=何らかの形の人間関係を持つことで、高揚感を持つ。出会い系サイトの利用者は、一緒にいてくれればだれでもいい。ストーカーは逆に特定の個人に執着する。人間関係が希薄になるにしたがって、これらの事例が増えている。
依存症の進行は次のような段階を踏む。最初は友達などに誘われ一回試してみる。気分は高揚し、副作用も無く実害を感じないので2回目をやる。次に、周囲に気付かれないよう、使うお金の額や頻度など、ルールを決めるようになる。次第に耐性が付いてくると最初の高揚感を得るためには、量回数が増えていく。次第に禁断症状が出てくる。身体的な症状とともに、勉強や仕事が手につかなくなるので、使わずにいられなくなる。薬物をやるために生きているような状態になり、資金調達のために家の物を売ったり借金をする。自己嫌悪、被害妄想、自殺願望が出てきたら最終段階。専門家の治療と入院が必要になる。
依存症の人の特徴としてあるのは、1つは現実否定。周囲にうそをつき、自分にうそをつく。自分のうそを自分で信じるようになると重症。もう1つは自己防衛。うそが崩れると困るので、周囲から真実を指摘させないようにバリアを張る。時として相手に反撃や脅迫もするが、実害をもたらすようなことはできない。
治療が必要になった場合に大事なのは、家族の対応だと言う。家族全員で問題に取り組むことの合意、確認が大事。家族の覚悟が決まったらそれを本人に告げる。「私たちはあなたを愛しているからあなたが依存症で人生を無駄にするのをこれ以上許容できない。家族よりも依存を選ぶなら何月何日までに家を出て、どっちが大事か体験してください」と通達する。家に戻りたがっても安易に受け入れてはいけない。会って話をする時は外で。一度許容すると、その後の矯正は困難になる。そして資金源を完全に断つ。薬物などはお金が掛かるので、お金が無くなればやれなくなる。
依存症で家族が陥りやすい状態として、「イネイブリング」を挙げる。これはカウンセリングの用語で、依存症者を手助けすることでかえって依存症の回復を遅らせてしまう、助長してしまう周囲の行為のことをいう。必要だろうからとお金を与える、生活リズムが乱れた依存症者に合わせるように家族が生活習慣を変える、など。それが高じると「共依存」の状態になる。これは、相手のニーズを満たすことで自分のニーズを満たしている状態。それにより家族は依存症者に対する優越感や自分の存在感を確認するようになる。そうなると依存症の問題が解決することは、家族にとっては困ることになる。
依存症の解決は「自立」させることであって、何かを「やめさせる」ことではない、と木崎氏は言う。「自立」が目標なのだから、親がかまうほど自立できなくなる。自分で考えて行動し、その責任をとること。そのためには、「あなたの人生はいいものだ」「このことのためにあなたはつくられたのだ」ということを教えて、道を示してあげること。それがわかれば本人が、こんなところで時間と労力を無駄にしてはいけない、と気付くようになる。「本人が使命を持ち、特に愛する家族を持つようになれば、安心することができる」と講演を結んだ。