映画「夜明けの祈り」--24時間の疑問と1分間の希望に生きる
第二次世界大戦が終結したばかりのポーランド。ドイツ軍が敗走したあと進攻してきたソ連軍兵らによって占拠されたローマ・カトリックの修道院で実際に起きた事件と被害を受けた修道女たちを援助した実在の女医をモチーフに語られる物語。重く暗い闇に陥りそうな情況に、たった一人寄り添ってくれた女医の存在が希望の光となり、苦悩のなかに在っても“24時間の疑問と1分間の希望”を祈り続けることの大切さを指し示している。
【あらすじ】
ローマ・カトリックの修道女が独り、早朝の森の中を歩き町へと向かう。降り積もった雪が、思いつめた表情と一途な意志をまばゆい光のなかに輝きを映し出す。修道女は、町に駐在する赤十字の女医マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)に今すぐ修道院に来て診療してほしいと懇願する。はじめは断ったが、屋外に立ったまま待ち続ける姿を見て心が動く。その日の診療が終わったあと、夜道を修道院へ向かう二人。
修道院に着くと副院長のシスター・マリア(アガタ・ブゼク)が二人を出迎えた。用向きは、ポーランドを占領しているソ連軍兵士たちが数回修道院に侵入してきて修道女たちを暴行し、ある者は殺害されたという。シスター・マリアは妊娠している修道女たちの健診をマチルドに頼みたいという。しかも、修道女が妊娠している事実は外部に知られないため夜中に来て夜明けに帰ってほしいという。その修道院の会派では、いかなる理由があろうとも修道女が妊娠するのは罪とされ、修道院も閉鎖になるという。そのため、これまでに生まれた子どもは修道院の院長マザー・オレスカ(アガタ・クレシャ)が、秘密裏に里親を探して養子にしてきたという。マチルドにも外部に知られないことを条件に往診を認めるという。
マチルドは、一人では困難なことを承知で、妊娠した修道女たちと胎児のいのちを護るため深夜の往診を始める。だが、院長が神の御名を汚すことを恐れて正しいと思って行なってきたある事実を知ったマリアは驚愕する…
【見どころ・エピソード】
ヒューマニストのマチルドが修道院の厳しい情況を見捨てることだ出来ず、個人として限界まで修道女たちに寄り添っていく緊張感。シスター・マリアが、院長が正しい判断して外部の助けを求めずに行動していくことに疑念を持ちながら従っていく。正しさを求める者に沈黙する神。時折り揺らぐ心と信仰の葛藤をシスター・マリアは「信仰とは、24時間の疑問と1分間の希望」とマチルドに語る。その“1分間の希望”が、新たに生きる道を切り開いていく。
オープニングの雪道を町へ下って行く修道女の道程、昼間でもうす暗く回廊と窓辺に射す光が静謐な空気感、ラストシークエンスの修道院に差し込む太陽の輝き。光の表現の美しさが悲惨と困難な情況にあっても希望の光に包まれていることを語っている。
女医マドレーヌ・ポーリアックが経験した物語をフォンテーヌ監督が翻案したフィクションだが、出来事の悲惨さに打ちひしがれて終わらず“いのちを生きること”“いのちを生かすこと”への希望と勇気が輝いている。戦争・内戦での虐殺・性暴力などは21世紀の現在も起きている。沈黙する神に、正義と公正を求めて呻吟する詩篇の作者たち。その沈黙の中に在っても希望を見失わせない光が放たれている。 【遠山清一】
監督:アンヌ・フォンテーヌ 2016年/フランス=ポーランド/フランス語、ポーランド語、ロシア語/115分/原題:Les innocentes 配給:ロングライド 2017年8月5日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開。推薦:カトリック中央協議会広報。
公式サイト http://yoake-inori.com
Facebook https://www.facebook.com/yoakeinori/
*AWARD*
2017年:セザール賞作品賞・監督賞・撮影賞・オリジナル脚本賞ノミネート。フランス映画祭2017「観客賞」受賞。 2016年:サンダンス映画祭公式上映作品。