インタビュー:映画「夜明けの祈り」A・フォンテーヌ監督--苦難の修道女らに寄り添った女医の物語
6月22日~25日に東京で開催されたフランス映画祭のエールフランス観客賞は、アンヌ・フォンテーヌ監督作品の「夜明けの祈り」が選ばれた。1945年のポーランド東部地域で起きたソ連軍による女性修道院での惨殺と性暴力事件。被害を受けた修道女らとフランス人女性医師マドレーヌ・ポーリアックとの知られざる史実を映画化した作品。重いテーマだが、ラストは人間の命の誕生を尊ぶ打開と希望を指し示している。8月5日(土)より公開上映される本品についてフォンテーヌ監督に話を聞いた。【遠山清一】
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終戦直後のポーランドの女子
修道院で起きた隠された史実
オープニングから情景と光の美しさが印象的で引き付けられる。一人の若い修道女が意を決した表情で雪の積もる森の木立を抜けて町へ下りていく。修道院には性暴力によって妊娠し、出産している修道女たちが苦悶しているが、事実を表沙汰にできず、医療的な助けを求めることもできない苦しんでいる。町に着いた修道女は、赤十字のフランス人女性医師マチルドに内密に助けを求める。
「戒律が厳しい修道院を抜け出して、助けを求めて外国人医師を探しに行くだけでも強い意志と気概がなければできない時代でした。そのこと自体が、この映画のキーでした。光の描き方については撮影監督と話して決めました。修道服は顔しか露出していない感じなので、顔の表情、顔色とか、ほかのものとの色同士の兼ね合いなどすべてを美しい世界として描きたかった。物語の情況は、戦争という暴力が支配している世界ですが、ある種、修道院の中には美しい世界があることを描きたかったのです」。
カトリックの家庭に育ち、二人のおばが修道女であったフォンテーヌ監督だが、「ちゃんとした知識がないとこの作品のテーマに取り組むことはできないのでベネディクト会の二つの修道院を訪ねて学び、二番目の修道院では実際に修練者として生活しました」。
正しいことという思い込みは
悲劇的な行動と結果を招きかねない
修道女の妊娠を不名誉と捉え修道院の閉鎖を恐れた院長によって起きた悲惨な出来事や、耐えがたい情況に在っても沈黙する神への信仰の揺らぎにも目を向けている。
「この修道院の女性院長は、先ほど申し上げた様々な“色”のうちの一つだと思います。彼女は修道院を守るために良いことをしていると思い込んでいた。だが、結果的に彼女は人間として考えられないようなことをしてしまいます。何がいけなかったのか。それは、彼女が一人で判断し、一人で決断していたことだったと思います。私は院長が良いことだと思っていたことに、皆さんに気づいてほしいと思っています。院長が神の御名において修道院で不条理なことを出来得たということを私は表現したかったのです」。
日本の観客にどのように届くと思うか?
「私は、観客にこのように届けばいいということは、あまり言いません。なぜなら、観客は十分に賢く観ておられると思います。ただ、人間的に生きる、人間的な心をもってヒューマニティに生きるとは、どういうことなのか。ほんとうに何が大事なのかということは、私がこの作品で伝えたかったことです。
また、(作品は)観る前と観た後とでは、心の中に何か違うなというものがあると思います。さらに見た直後だけではなく、翌日、その次の日も『あ、あれはこういうことだったんだ』というようなことを感じていただければうれしく思います」。
修道女たちは医師のマチルドにも、人前では肌を見せないと拒んでいたが、夜中にやってきて夜明けに帰るマチルドの健診を受け、生命と向き合う真摯な姿をとおしてやり場のない不安から解き放されていく。修道女たちと生まれてきた新生児たちの生命を守り続けるための活路を見出したマチルドと副院長らの決断が、本作で描かれた重荷を希望の光へと切り開いていく結末が感動的だ。
2016年、フランス=ポーランド/115分/原題:Les innocentes 配給:ロングライド 2017年8月5日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開。推薦:カトリック中央協議会広報。
公式サイト http://yoake-inori.com
Facebook https://www.facebook.com/yoakeinori/
*AWARD*
2017年:セザール賞作品賞・監督賞・撮影賞・オリジナル脚本賞ノミネート。フランス映画祭2017「観客賞」受賞。 2016年:サンダンス映画祭公式上映作品。