9月10日号紙面:白血病の女の子の思い 絵本でつなぐ てをつないで さあみんなで 出身地埼玉で原画展「いちばん大切なもの」 つらいのはきみひとりだけじゃないよ
白血病の12歳の女の子、清水美緒さん(故人)が自分で作ったお話を絵本にしたいという夢を、難病と闘う子どもの夢を叶えるボランティア団体、一般財団法人「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン(MAWJ)」の協力で生まれた絵本『いちばん大切なもの』の原画展が8月19日から28日まで、美緒さんの出身地、埼玉県さいたま市北区日進町のギャラリー「創造空間」で開催された。記者が訪れた20日は、絵本制作を進める生前の美緒さんのDVDを上映し、その夢をかなえるお手伝いをしたMAWJ前事務局長の大野寿子さん(日基教団・浦安教会員)が話をした。 【中田 朗】
「メイク・ア・ウィッシュ(MAW)」は、3歳から18歳未満の難病と闘う子どもの夢をかなえるお手伝いをするため、1980年にアメリカで生まれたボランティア団体。その活動は世界に広がり、92年には日本支部が立ち上がり、今日まで2千879人の難病の子どもたちの夢のお手伝いをしてきた。美緒さんはその中の一人だ。
美緒さんは、いつも明るく活発な子で、小学校では多くの友だちに恵まれた。負けず嫌いで、運動会の駆けっこではいつも1等賞だったという。だが、1999年10歳の秋に急性リンパ性白血病と診断された。原因は不明。闘病のため、養護学校に転校。入院生活を1年間送り、一度は退院したが再発し、再び入院を余儀なくされた。
そんな中、病院の中に貼ってあった「夢をかなえる人たちがいる」と書かれたMAWJのポスターが、母親の明美さんの目に留まる。美緒さんに話したところ、「夢をかなえてくれるってすごい。素敵!」と答えた。「本当につらい時期だったので、夢という言葉が美緒の心に響いたのでしょう」と明美さん。早速、MAWJに連絡した。
絵本を作るという夢を持っていた美緒さんは、養護学校の文化祭のために書いたお芝居を下敷きに、動物を主人公にしたストーリーを作り、登場するキャラクターも自分で考えた。犬、うさぎ、さかななど森に暮らす動物たちが力を合わせて宝物を探すという物語だ。
このイメージを、イラストレーターの金斗鉉さん(日基教団・浦安教会員)が形にした。「キャラクターの説明は文章で来たので、それを読んで描いた。『筋肉質のさかな』は苦労したけれど、後で合わせたら、美緒ちゃんがノートに描いていたものとほぼ一致していた」と金さんは驚く。「自分の弟子にしたいほどデッサン力があったので、部分的に美緒ちゃんに描いてもらった」とも話す。
だが、難病の子は時間との闘い。いつ、容体が悪化するか分からない。一方、絵本作りは最低半年はかかる。「急がなければ」と、作業は急ピッチで進んだ。美緒さんが絵本の試し刷りを見た時は、39度の熱で状態があまりよくない時。だが、試し刷りを見てみるみる明るく元気になっていく美緒さんの姿が映像で映し出されていた。絵本は遂に完成。だがその前日、美緒さんは亡くなった。
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「たった1日違いで間に合わなかった。でも、本当に美緒ちゃんが作りたかった絵本になったと思います」。金さんと共に、美緒さんの絵本作りをお手伝いしてきた大野さんは話す。
美緒さんの出身地で原画展が開かれた経緯も話してくれた。「埼玉県で行われた生命保険会社の講演会のゲストに出させていただいた。その時は美緒ちゃんの話をする予定はなかったが、前のプログラムが短く終わり、次の講師がまだ到着しておらず、『なんとかつないでほしい』と。やった、と思って美緒ちゃんの話をし、『美緒ちゃんの絵本の原画展をやりたいと思っているんです』と申し上げたら、パッと手を挙げてくださった方がいました。そして、たった数か月の間に準備が進んでいったのです」
原画展では、初日に60人が見学に訪れ、地元紙の埼玉新聞の取材もあった。最初は2日間の予定が、埼玉新聞の記事の反響のおかげで期間を1週間伸ばすことにもなった。
「私が美緒ちゃんから教えてもらったのは、手をつなぐことだった」と大野さんは言う。「手をつなぐことは、一人ではできない。必ず相手がいる。生きている中では、神様、何でこんな目に遭うのですか、ということがいっぱいある。でも、そんな時でも、こんな私とも、祈ったり、愛したり、応援したりしてくれる人と手をつないでいるということを信じられる時、人生は豊かで力強いな、と」
明美さんは、「つらく、長く、苦しい闘病生活で、自暴自棄になるぐらいに落ち込んだり、絶望的になっていた時、美緒は同じ病室で同じように病気と闘っている子どもたちに励まされていた」と言う。「私の絵本を日本中で病気と闘っている子どもたちにプレゼントできたらいいね」と話していたとも明かす。
美緒さんはこんな言葉を遺している。「つらいのはきみひとりだけじゃないよ/みんなでいっしょにがんばっていこうよ/てをつないで/さあみんなでけんこう/そだてよう」。絵本も、動物たちが協力しあって宝物を探しに行くという物語だ。だが、宝物よりももっと大切なものに気づくというのが、この絵本のメッセージだ。大野さんは言う。「この美緒ちゃんの思いをいろんな人に伝え、広げていってほしい」
絵本の問い合わせはTel03・3221・8388、MAWJまで。URL http://www.mawj.org/index.html