「New Yorker」誌の時代より反原発派ジャーナリストとして知られていたグイナス・クレイヴァンズ氏は、『原子力の真実』を発表以来’気候変動危機の解決手段としての原子力’についてアピールしている。 ©Pandora’s Promise, LLC

原子力エネルギーは地球環境を壊滅させる発電システムだ。環境保護を主張する立場からは、’反原発’は当然と思われてきた。だが、それは思い込みであって、原子力こそ二酸化炭素(CO2)を輩出しないクリーンなエネルギー源であり、気候温暖化対策を解決するテクノロジーだと主張する。しかも、かつては環境保護派で’反原発’の立場だった著名な科学者やジャーナリストら5人が、その’転向’の軌跡を論理とデータによって解き明かしていく。いわば’反原発は感情論’と言わんばかりの啓発ドキュメンタリー映画。冷静かつ論理的に観察したい作品だ。

ロバート・ストーン監督自身が、反原発の立場から環境保護を訴えてきた映画作家だった。だが、再生可能エネルギーが単独では化石燃料に代わることができず、化石燃料が使われ続けることで急激な気候崩壊へ向かわせることに気付き原子力エネルギー推進派に’転向’した。

本作では、おもに3つの主張から原子力エネルギーの推進を説いている。

第1は、原子力は気候変動の危機および新興国などでの人口急増による地球規模のエネルギー源として解決へ導く唯一有効な手段。

第2は、これまでセンセーショナルな情報提供によって、原子爆弾の脅威と原発事故による放射能汚染の危険性が混同されている。放射能物質は適切に監理できるものであり人体への影響も無害に近いほどコントロール可能。

第3は、原発の危険性は60年代製のテクノロジーへの批判がほとんどだが、現代ではプルトニウムを使う一体型高速炉(IFR)など高い安全性と核兵器プルトニュウムを減少できる高度な研究開発が進展しておりイノベーションの可能性の高いエネルギー源だ。

環境保護運動のエポック’Whole Earth Catalogue’(全地球カタログ)著者スチュアート・ブランド氏も原子力推進派に転向した一人。 ©Pandora’s Promise, LLC

これらをメインテーマに、’反原発’から地球の環境保護のために’原発推進’に転向した5人の科学者、ジャーナリストらが、その転向の根拠と奇跡を語っている。

スチュアート・ブランドは、60年代後半から70年初頭にかけてアメリカ中心に活発化した国土回復運動のバイブル「全世界カタログ」の発行人として知られる。その思想は、アップル会長だったスティーブ・ジョブスはじめニューエイジの人々にも大きな影響を与えたが、「この映画に出演することで自分の主義・主張を改めて確認してもらいたい」としている。

マーク・ライナースは、イギリスの作家・ジャーナリストで、地球環境保護運動での気候変動に関する専門家。近年は、気候変動への解決手段としての原子力を支持しつつ、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの推進を実践。再生可能エネルギー推進グループと原発推進グループの連携運動に関わって、イギリスのエネルギー政策の完全転換をめざしている。

マイケル・シェレンバーガーは、2004年に『環境保護主義の死』を上梓。それまでの環境保護主義が’気候変動に対して何の有効対策も持てないことが証明された’と述べ、若手の環境保護主義者に多大な影響を与えた。独自の調査によって’再生可能エネルギーは90億人にもなる将来世界には適さない’として、自他ともに認める次世代原発のスポークスマン的存在となっている。

グイネス・クレイヴンズは、筋金入りともいえる反原発派の雑誌編集者・ジャーナリストで作家だった。だが、原子力関係文献の調査や原子力発電所取材をもとに『原子力の真実』を発表以降、原発賛成派のスポークスマンとして’気候変動危機の解決手段としての原子力’についての講演をアメリカ内外で行っている。

リチャード・ローズ(作家)は、当初、反原発の立場で著述していたが、科学者やエンジニアが原子力の高いエネルギー変換効率に着目していることから考えを変えた。また、一般市民が核爆弾と原子力エネルギーを混同しているかについて強調しており、最終的に、原子力こそが最もクリーンで安全なエネルギーであると結論付けている。

多くの環境保護論者が科学的根拠を持たない核兵器と原子力エネルギーを混同した情報提供に扇動されているという視点からの問題提起。暴論・ナンセンスと一蹴する前に、本作のデータ提供や論理の構築について検証と反論を期待したい。 【遠山清一】

監督:ロバート・ストーン 2013年/アメリカ/87分/ドキュメンタリー/原題:Pandora’s Promise/カラー/DCP/16:9 配給:トラヴィス 2014年4月19日(土)よりシネマライズほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.pandoraspromise.jp

2013年サンダンス映画祭正式招待作品。