映画「アウトサイダーズ」――異文化差別受けて犯罪暮らし“トラべラーズ”家族の父性愛と葛藤
トレイラーハウスを連ねてイギリス、アイルランドの各地を放浪しながら代々暮らしてきた“トラべラーズ”と呼ばれるエスニック・マイノリティのコミュニティが存在する。ある州の犯罪の7割も犯行していた実在した“トラべラーズ”のアウトロー・ファミリーにインスパイアされて生まれた作品。“トラべラーズ”は、窃盗・強盗なども厭わない独特なライフスタイルと宗教観・識字率の低さなどによって社会から差別されている。そのファミリーから抜け出そうとすれば、ファミリーの固い結束に亀裂が生じ立ちはだかる者も出てくる。マイケル・ファスベンダーのクールなカーチェスや事件に絡む暮らしや生活文化の一端を描きながらエスニック・マイノリティから抜け出させない社会的な問題をも想起させられる。
【あらすじ】
カトラー一家を中心とした“トラべラーズ”が、町外れの草原の一角にトレイラーハウスでキャンピングしている。ファミリーの中心は、カトラー家の家長コルビー(ブレンダン・グリーソン)。窃盗や強盗を生業にしながら各地を放浪しているため、実行犯リーダーの息子チャド(マイケル・ファスベンダー)は、学校に行けなかったため読み書きができない。だが、チャドと妻ケリー(リンゼイ・マーシャル)は、強盗暮らしから足を洗いファミリーから抜け出して町で暮らしたいと考えている。そのため息子のタイソンと娘のミニは小学校に通させている。
ファミリーを取り仕切っているコルビーは、進化論を教える学校が大嫌いだ。正しいことは父親から子に子から孫に代々教えていくものだという信念だが、コルビーは独自な保守的理解でファミリーに聖書の教えを説く。。チャドとケリーの教育方針も気にくわないし、ファミリーを抜け出そうとしていることにも薄々気づいているようだ。いままで強盗仕事してこなかった日曜日の夜、コルビーは、無理やりチャドやゴードン・ベネット(ショーン・ハリス)、ウィンドウズ(バリー・コーガン)たちをある屋敷へ仕事に送り出す。そこは州総督の屋敷だった。迅速な警察の追跡を必死のハンドルさばきでどうにか逃げ果せたチャド。
翌朝、チャドは襲った屋敷が州総督邸だったことをTVニュースで知った。チャドは、トラベラーズに対しても理解を示すノアの土地を買い取ってケリーと子どもたちと暮らす決心をする。だが、コルビーが壁となって立ちはだかる…。
【見どころ・エピソード】
警察との派手なカーチェイス、逃げ果せれば強盗に使った盗難車はガソリンをかけて燃やす。証拠は残らないので、たとえ捕まっても起訴されない。だが、治安維持の総責任者でもある州総督の屋敷を襲ったことで、警察の追及はそれまでにない厳しさで追い迫ってくる。そうしたサスペンスフルな展開のなかで、二代にわたる父と子の絆がどのような差別を受けても困難を乗り越えさせてきた芯の強さを描いている。【遠山清一】
監督:アダム・スミス 2016年/イギリス/99分/映倫:R15+/原題:Trespass Against Us 配給:トランスフォーマー 2018年2月10日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.transformer.co.jp/m/outsiders/
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*AWARD*
2016年:第41回トロント国際映画祭正式出品作品。第19回英国インディペンデント映画賞新人監督賞・主演男優賞(マイケル・ファスベンダー)・助演男優賞(ショーン・ハリス)ノミネート作品。