映画「バケツと僕!」――人の好い知的障害を持つ少年に心ほだされる出会い
児童養護施設で働く主人公と軽度の知的障害を持ち盗癖がある少年の友情を描いた北島行徳の小説『バケツ』(2005年、文藝春秋刊)を、シンガーソングライターの紘毅と演歌歌手の徳永ゆうきのダブル主演で映画化。母親から激しいネグレストと虐待を受けて児童養護施設に預けられたと“バケツ”あだ名される15歳の少年。学校でもいじめに遭っている“バケツ”。トラブルの種を撒く“バケツ”だが、彼はひどい目にあわされた母親への恨み言や体罰やいじめに遭っても暴力でし返すことはせず、人の行為を受容し信じようとする。その姿は、どことなく遠藤周作のユーモア小説『おバカさん』のガストンを彷彿とさせる人物設定が興味深い。ネグレスト、児童虐待、養護職員の体罰教育など現代社会のシビアな情況も描かれているが、“バケツ”が繰り出すトラブルがユーモアな展開へと潤滑させていて心ほだされる作品に仕上げられている。
【あらすじ】
児童養護施設で働くことになった気弱な青年・神島大吾(紘毅=ひろき=)は、“バケツ”とあだ名されている15歳の少年・里谷和人(徳永ゆうき)と出会う。“バケツ”は身体は大きいが軽度の知的障害と盗癖がある。母親はすでに他界しているが、5人の子どもを産み、子どもたちの父親はすべて違う名前で“バケツ”はその末っ子として生まれた。その母親に、なぜかバケツ一つ持たされて捨てられ養護施設に連れられてきた和人だが、そのバケツだけはずっと大事にしているため入所している子どもたちから“バケツ”と呼ばれるようになった。
就職した初日のあいさつで“バケツ”は、神島に“神様先生”とあだ名をつけて呼んだ。たんに神島の名字が呼びにくいからだという。神島は“バケツ”に信頼されたようだ。入所の子どもたちからも施設の職員たちからもいいように扱われている“バケツ”は、盗癖あるため一人だけ私設の宿直室を個室としてあてがわれている。どこからか拾ってきたような物やインスタント食品の容器などが散乱しているなかで、例のバケツがそれと分かるように置かれている。
施設のふろ場から誰かを叩く音とうめき声が漏れ聞こえる。ベテラン教職員の山崎緑(杉田かおる)が、“バケツ”に体罰を加えている。止めに入る神島に、山崎先生は「いま厳しく躾けないとこの子のためにならない」と自説を主張するが、神島は「“バケツ”は犬やじゃない」と真っ向から対抗して“バケツ”を護る。
中学を卒業後は養護施設を出て就職して自立しなければならない“バケツ”だが、当てにしていた一番上の姉・里谷美由紀(竹島由夏)の所には彼氏がいて同居できなくなった。とことん面倒を見ることにした神島は、先輩で障害者劇団を主宰している黒田凛子(岡本玲)の劇団倉庫に間借りして“バケツ”を引き取り養護施設を辞職する。電車の乗り方も覚束ない“バケツ”だが、いっしょに高齢者施設で介護の仕事に就くことができた。だが、あるトラブルを起こしたことで“バケツ”は神島の下を去りどこかへ行ってしまう…。
【見どころ・エピソード】
“バケツ”を護ろうとする神島と、神島を“神様先生”と呼んで信頼を寄せる“バケツ”の心の絆をコミカルな演出で描いた本作の主演は、さわやかなシンガーソングライター紘毅と本格派演歌歌手の徳永ゆうきのダブルキャスト。徳永ゆうきは、高校を卒業した年(2013年)にメジャーデビューした明るいキャラクターでしっかりした歌唱力を高く評価されていることから大人びた面もあって、年齢不詳なムードを醸し出している。実年齢より8歳の年下の15歳で知的障害を持った役どころだが、原作者・北島行徳が「バケツのイメージにそっくり」と評するほどピュアな演技を魅せている。“障害は一つの個性”というようなステレオタイプな表現ではなく、ひどい目にあわせられた母親であっても親への思慕を捨てられない複雑な心理、他人への素直な対応や優しさが“バケツ”個性として伝わってくる演技が印象深い。 【遠山清一】
監督:䂖田和彦 2017年/日本/106分/映倫:G/ 配給:彩プロ 2018年3月3日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開。
公式サイト http://baketsu.ayapro.ne.jp/
Twitter https://twitter.com/baketsueiga