(C)2018「モリのいる場所」製作委員会

東京国立近代美術館で昨年12月から今年3月まで「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展が開催されていた。豊島区池袋に自宅を建ててからは、自宅の庭からほとんど外出せずに虫や小動物、草花などを観察し独特の表現様式で描き続けた熊谷守一。“画壇の仙人”“超俗の人”などと評された熊谷守一の晩年の一日をファンタジーな感覚で描いている。社会的なステイタスや日常の忙しなさに埋め込まれていく現代。来る者を拒まずに、思いの向くまま自由であるようにみえても、人の心の中にある執着、生きていることの哀しみの深さと色合いが静かに伝わってくる。

【あらすじ】
昭和49年(1974年)夏のある一日。熊谷家の朝の食卓。94歳の守一(山崎努)の妻・秀子(76歳/樹木希林)と秀子の姪・美恵(池谷のぶえ)の三人住まい。美恵は守一を「モリ」と呼んでいる。朝食が終ると、守一は秀子に「いってきます」と声をかけ草木が生い茂る自宅の庭へと歩いていく。庭には草木や虫たちを観察するためあちこちに腰掛が置かれている。地面に寝そべって見入っているときもある。大きな穴の下には小さな池があり、魚が泳いでいる。守一の午前の日課は庭をじっくり観て周ることからはじまる。

熊谷家には、朝から客がよく訪ねてくる。連れ立ってやって来た画商の荒木(きたろう)と峯村(谷川昭一朗)は、縁側から上がり込み勝手にお茶を入れている。信州から温泉旅館の主人・朝比奈(光石研)が檜の板を抱えて訪ねてきた。看板に揮毫してもらいたいとお願いに来たのだが、庭を観ている守一は「いまは忙しい」のひとこと。秀子がどうにか執り成すと、信州から来たという一言で機嫌を良くし筆を執ると言う守一。郵便配達人(中島歩)が美恵に表札が盗まれていることを告げる。これも守一が書き換える度にすぐ盗まれる。

写真家の藤田(加瀬亮)が助手の鹿島(吉村界人)を連れてやって来た。藤田は、自宅の庭から出ない守一をずっと追い続ている。守一が自由に観察できるよう気遣いながらシャッターを切っていく藤田たちに、守一も虫たちを観ていて気付いたことを気さくに話しかける。

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熊谷家の近隣にマンション建設が始まった。そのマンションのオーナー水島(吹越満)と現場監督の岩谷(青木崇高)がやって来た。近隣に建てられているマンション建設反対の塀に抗議しに来た。「熊谷守一大画伯の庭を守れ」と塀に書いたのは、守一を尊敬する美大生たちだった。実際、マンションが完成すると庭に陽が当たらない場所ができる。守一は、庭の池を埋めることに決めた。埋める作業は現場監督の岩谷に依頼する守一…。

【見どころ・エピソード】
ほんとうに無欲な守一と秀子夫婦の暮らし。そんな生き方に惹かれるように訪ねてくる人たち。ある一日に凝縮されている風情は“昭和”の日常そのもので懐かしくもあり、なんとも愉しい。
一方では、面と線で大胆に描くシンプルな熊谷守一の作品が、緻密な観察眼に裏打ちされていることを伺わせる日常の描写。小さな庭と“学校”と称していた画室で描かれた守一の世界は、悠久無限な宇宙の創造にもつながる清廉な世界のようでなんとも清々しかった。 【遠山清一】

監督:沖田修一 2018年/日本/99分/映倫:G/ 配給:日活 2018年5月19日(土)よりシネスイッチ銀座、ユーロスペース、シネ・リーブル池袋、イオンシネマほか全国ロードショー。
公式サイト http://mori-movie.com/
Facebook https://www.facebook.com/morimovie2017/