2018年06月03日号 01面

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古代の世界観で読み直す

 天地創造のテーマを、古代中東の世界観の中で読み解こうとする試みで注目される新刊『創世記1章の再発見 古代の世界観で聖書を読む』(聖契神学校編、いのちのことば社発売)の著者で、米・ホイートン大学旧約学教授のジョン・H・ウォルトン氏が来日し、東京、神戸で講演した。12日の出版記念講演会を始めとして、「創世記1章は何を語っているか?〜機能的コスモロジーの再発見」(14日・日本福音主義神学会東部部会主催)、「創世記2章は何を語っているのか?〜古代の世界観で人類の起源を考える」(15日・聖契神学校主催)、「創世記理解の新しい地平〜古代の世界観で読み直す」(16日・神戸)、4回の公開講演が行われた。「関西神学校連絡会第1回合同公開授業」として行われた16日の講演を抄録する。

 権威の所在

 神のことばを忠実に解釈するには、どうすれば良いのでしょうか。

 聖書が神から来たなら、そこには神からの権威があるはずです。神は人間という伝達者を通してご自身のメッセージを語り、権威は聖書各巻の著者に授けられています。神はそのような方法で働くことを選ばれたのです。

 神のことばは私たちの「ために」書かれたが、私たちに「対して」書かれたのではないと知らなければなりません。聖書のメッセージは文化を超越しますが、伝達形態は文化と密接に結びついています。ですから、人間の著者の世界、彼らの「文化的文脈の流れ」の中に、私たち自身を浸す必要があるのです。

 文化的文脈の流れ

 神のメッセージが人間の著者によって書かれたものの中にあるなら、自分たちの文化的文脈の流れを横に置き、異なる流れを理解することが求められます。そうすることで、私たちは聖書の権威に自らを明け渡し、忠実な解釈者となれるのです。

 聖書を「そのまま」読むだけでは、自分自身の文化的文脈の流れから読むことになり、聖書が語っていないことまで読み込みかねません。聖書の権威を受け入れるとは、著者の意図を汲み取る責任を自分自身に課し、彼らの見方で見ようとすることです。人間の著者が意図したことを理解する以上に「文字どおり」読む方法はありません。著者が比喩として書いているなら比喩、たとえ話として書いているならたとえ話として理解すべきです。最も大切なのは、著者の意図が何かを探ることです。

 私たちが著者の文化的文脈の流れに自らを浸すための一つ目のポイントは、古代のさまざまな文化から「借用している」のではなく、その文化が聖書の中に「埋め込まれている」ことです。たとえば洪水物語を古代バビロンの文書からイスラエルの民が借用したと考える人たちもいますが、その必要はありません。イスラエルの文化的文脈の中にすでにあるからです。神が啓示されたのは、洪水がなぜ起こったかです。

 古代中東のテキストは、古代世界で人々がどのように考えたのかという「窓」を提供してくれます。その「窓」から何が見えるかによって私たちは、より忠実な解釈者となれるのです。

 たとえば、宇宙をどう見るか、自然と超自然との区別、脳の役割などについて、私たちの理解と古代の人々の理解は大きく異なります。私たちは自分たちの知識が正しいと考えますが、神はそのような情報を古代の人々に与えようとはせず、彼らの理解を用いて、ご自身のメッセージを伝えられました。それが効果的なコミュニケーションの方法だからです。私たちは、古代の人々の見方で物事をとらえなければなりません。

 以上のことを前提として、権威ある聖書のメッセージに至るために、私がアプローチしている方法を述べましょう。

 バーラー、トーフー、アーサー

 創世記1章で「創造する」と訳される動詞「バーラー」は、旧約聖書で約50回使用されています。主体となるのは神だけであり、神のみわざを指しています。目的語は、民、暗黒、きよさなど、かなり多様性が見られます。必ずしも物質的なものだけではありません。

 1章2節に、いきなり「地と海」が出てきます。それらがすでにあるところから話は始まります。物質の有無ではなく、秩序の有無に着目されていることが分かります。「暗闇と海」は、古代世界では秩序の欠落を意味する要素です。

 そこに「トーフー」という語が出てきます。「価値や目的が欠けている、何事もなされない場所」を表す語です。古代中東では、秩序立てた世界の中で十分な働きや機能がなければ「存在していない」と考えました。2節に「地はトーフーであった」とあるのは、「秩序立てられていなかった」ゆえ「存在していなかった」のです。

 秩序の欠落は、いちばん最初の望まれない状態です。創世記1章で、神は人に秩序を確立する仕事を与えました。支配し治めるとは、この世界に秩序を与えることを意味します。神によって維持されている秩序が覆されると、無秩序が生じます。無秩序は悪です。秩序を破壊しているからです。

 もう一つ注目すべきヘブル語が、「為す」「造る」を意味する「アーサー」です。神はすべてのことを為し、すべてを造り、私たちが「自然的」と呼ぶか否かにかかわらず、そこで動作主として働いておられます。どんな手段を用いたとしても、神こそが唯一の創造者です。(続きは紙面で