(C)Ilisa Barbash and Lucien Castaing-Taylor
(C)Ilisa Barbash and Lucien Castaing-Taylor

アメリカ北西部モンタナ州。牧草を食べ尽くした羊の大群を250km先の草の萌える地(原題:Sweetgrass)をめざして、ベアトゥース山脈を縦走する。人間も生きものたちも、大自然に抱かれ時には闘いながら生かされてきた。失われゆく生活文化がみごとに活写されているドキュメンタリー。「ハーバード大学感覚民族誌学ラボ」の傑作選“ハント・ザ・ワールド”(6月13日~7月17日)にて日本初公開上映。

田舎の町の大通りを埋め尽くして行進する羊の群れ。やがてベアトゥース連山へと入っていく。森の脇を通り抜ける羊たち。渓谷の細い道にせり出している木々の枝の難所もひしめき合うようにひたすら前進していく。まるで大雨の水流が激しく流れる様のようだ。羊たちを率いるのは馬にまたがった数人の牧童たちと1匹の牧羊犬。夜になれば、羊を狙って狼や熊が近づいてくる。危険な獣たちをライフルを撃って追い払う。

遠くの牧草地へ羊たちを移動させる昔ながらの羊畜を営んでいるのは、ノルウェー系アメリカ人の一家。その飼育法を実践しているのはこの家族が最後だという。西部開拓期さながらの羊牧生活を、壮大な自然と生きものたちの営みを、一人の文化人類学者が撮っているとは思えない美しくも活き活きとしたカメラワークが素晴らしい。2001年夏に撮影された羊牧地への縦走と厳しい移動生活。2006年にはこの一家の牧場は売却され、伝統的な羊牧生活文化と伝統は文字通り過去のものとなった。ノスタルジーを超えて自然と人間と文化が一つになっていた姿を心に焼き付けておきたい。 【遠山清一

監督:イリーサ・バーバッシュ、ルーシァン・キャステーヌ=テイラー 2009年/アメリカ/101分/35ミリ/原題:Sweetgrass 配給:東風 2015年6月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次巡回。
2009年ベルリン国際映画祭正式招待作品、ニューヨーク映画祭正式招待作品。
公式サイト http://www.hunt-the-world.com
Facebook https://www.facebook.com/tofoofilms?fref=ts

ハーバード大学感覚民族誌学ラボ
“ハント・ザ・ワールド”とは
本作「モンタナ 最後のカウボーイ」は、6月13日から7月17日まで東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催される「ハーバード大学 感覚民族誌学ラボ 傑作選“ハント・ザ・ワールド”」で4作品のうちの1つ。

ハーバード大学 感覚民族誌学ラボ【Sensory Ethnography Lab】とは、美学と民族誌学との革新的なコラボレーションをおしすすめるハーバード大学の実験的なラボラトリー。アナログとデジタルメディアを組み合わせた研究プロジェクトの成果として映画、ヴィデオアート、音響、写真、インスタレーション作品を発表している。人類学者であり、映画作家のルーシァン・キャステーヌ=テイラーがディレクターをつとめる。
今回の傑作では、日本初公開の「モンタナ 最後のカウボーイ」のほか、下記の作品が上映される。いずれの作品も、配給は東風。(同公式サイトより作品紹介転載)

(C)Verena Paravel and J.P. Sniadecki
(C)Verena Paravel and J.P. Sniadecki

*「ニューヨーク ジャンクヤード」(日本初公開)

NYメッツの新球場「シティ・フィールド」のまわりには、自動車部品のジャンクヤードがひろがっている。移民たちの陽気な歌声とバーベキューの煙。グレーな仕事で稼ぐカップル、友人たちに毎日小銭をせがんで生活する老女。再開発のため、やがて消えゆく街でたくましく生きる愛すべき人々に、豊かな暮らしのヒントを貰う。

監督:ヴェレナ・パラヴェル、J.P.シニァデツキ 2010年/アメリカ=フランス/80分/デジタル/原題:Foreign Parts
2010年ロカルノ国際映画祭最優秀初長編審査員特別賞受賞、ニューヨーク映画祭正式招待作品。

 

(C)Arrete Ton Cinema 2012
(C)Arrete Ton Cinema 2012

*「リヴァイアサン」(2014年日本公開、再上映)
ニューベッドフォード――かつて世界の捕鯨の中心であり、メルヴィルの『白鯨』をインスパイアした港町を出航するトロール船アテーナ号。危険で過酷な漁は数週間にわたり、船は漆黒の海をゆく。観るもののド肝を抜く、圧倒的な映像と音響が描くのは、わたしたち人類の野蛮さそのもの。それはあまりにも美しい黙示録の体験である。
監督:ヴェレナ・パラヴェル、ルーシァン・キャステーヌ=テイラー 2012年/アメリカ=フランス=イギリス/87分/デジタル/原題:Leviathan
2012年ロカルノ国際映画祭 国際映画批評家連盟賞、2013年ベルリン国際映画祭正式招待作品。

 

 

(C)Stephanie Spray and Pacho Velez
(C)Stephanie Spray and Pacho Velez

*「マナカマナ 雲上の巡礼」(日本初公開)
ネパールのジャングルの奥深く、ヒマラヤを望むヒンドゥー教の聖地マナカマナ寺院は雲上にたたずむ。巡礼者たちは、かつて3時間かけた山道を今は片道10分のロープウェイで登る。映画はその道のりをワンカットで切り取っていく。浮遊するカプセルのなかの人間模様と窓外にひろがる大自然とが奏でる壮麗なシンフォニー。
監督:ステファニー・スプレイ、パチョ・ヴェレズ 2013年/ネパール=アメリカ/118分/デジタル/原題:MANAKAMANA
2013年ロカルノ国際映画祭現代の映画人部門金豹賞受賞・最優秀初長編作品特別賞受賞作品。
巡回上映情報:http://www.hunt-the-world.com/theater/