レイチェル・ドレッツィン監督・プロデューサー: イェール大学卒。長年にわたり、アメリカの公共放送サービスPBSで放送されている有名なドキュメンタリーシリーズ「Frontline」を制作し、国内のドキュメンタリー映画賞を多数受賞。彼女の夫であり映画製作者のバラク・グッドマンと、ブルックリンを拠点とする制作会社Ark Media を共同で設立し、エミー賞、ピーボディ賞、デュポン・コロンビア賞受賞作品「The African Americans」などを含む、PBSの4本の主要シリーズのシニアプロデューサーを務める。ヒラリー・クリントンと同級生の女性たちを取材した「Hillary’s Class」や、中年期のセクシャリティを扱ったショートフィルム『Naked』など、時事性の高い社会派の作品を多く手がけており、本作が長編映画デビューとなる。ブルックリンに在住し、3人のティーンエージャーの母親でもある。

両親とは“違う”障害や性質を持って生まれた子ども。6組の親子が、いろとりどりの幸せを紡ぎとってきた道程を語り明日への光を見出そうとしているドキュメンタリー映画「いろとりどりの親子」が11月17日より全国順次公開中。さまざまな“障害”を多様性として受容し合い、アイデンティティ(個性)を築き、新しいコミュニティと文化を築く道を指し示している本作の監督レイチェル・ドレッツィンさんに話を聞いた。【遠山清一】

↓ ↓ 映画「いろとりどりの親子」レビュー記事 ↓ ↓
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ノンフィクションのベストセラー
『Far from the Tree』を映画化

本作は、全米批評家協会賞はじめ数々のノンフィクション文学賞を受賞しているアンドリュー・ソロモン著『FAR FROM THE TREE』(2012年刊)から6組の親子を再取材し映画化している。著者のアンドリュー・ソロモンは、自分自身を一人の男性として受け入れようと努力している両親の姿勢を直視して、親とは“違う”性質をもって子どもたちと親たちを検証する。身体障害者、発達障害、LGBTなどさまざまな“違い”をもつ300以上の子どもと親たちを10年に渡って取材し900ページに及ぶ大書にまとめた。

ドレッツィン監督は、『FAR FROM THE TREE』を読んで「本の中の“光り輝く人間性”に惹かれて、すぐに映画しようと思った」という。だが、アンドリューにはすでに30件以上の映画化の申し込みが届いていた。一度は断られたが、ドレッツィン監督のおよそ1年に及ぶ説得交渉で本書が伝えたいメッセージを的確に理解していることに信頼を得たという。さらに映画という表現媒体と限られた時間内に収めるため登場する親子の選択と交渉などに1年を要した。

原作の著者アンドリュー自身、本作に出演している。彼自身、ゲイであることを変えられない自分の苦悩と理解できない両親が自分を受容しようとする姿を語り、さまざまな“違い”を持った親子の姿を紹介していく。ダウン症のジェイソンと母エミリーは、かつてセサミストリートにも出演していた。自閉症のジャックは話すことはできないが、学校の成績はオールA。低身長症のロイーニは、低身長症の年次大会に初参加して同じ仲間と初めて出会い、友人も出来た喜びに感動する。低身長症のリアとジョセフ夫妻は、心から出産して子どもを授かりたいと願っている。それも、できれば低身長症の子どもをと。

いわゆる障害者と親という関係性と異なるケースも語られている。長男トレヴァーが16歳のとき年下の男の子を殺害し終身刑になったリース一家。トレヴァーの両親と弟妹の4人は住んでいた町から別の州へ引っ越したばかり。弟妹は、両親が愛情豊かにトレヴァーを育てるのを観ていた。愛情を注いで子育てしても兄のような悲惨な事件を起こしてしまう。弟妹は、現実を目の当たりにして結婚に対して怖さを抱いている。だが、両親と家族は、以前よりも強く家族であることを意識し合い、トレヴァーを愛している。

ほかの親子とは家族の風景が異なる、この家族の取り上げたのはなぜなのだろうか。
ドレッツィン監督は「人生と同じように、ときにはうまくいかない情況というものもちゃんと描きたかったのです。トレヴァーの両親と弟妹にとって平穏が訪れることがいつかあるのかどうか私にも分かりません。それでも彼らは自分の息子を愛し続ける方法を見つけたのです。そのように愛を見つけるということはとても重要で普遍的な経験だと思うのです。ほかの親子の物語に比べてリース家はダークな物語かもしれません。そして答えが見えない物語なのかもしれません。でも、嘘ぽい答えみたいなものを本編の最後に据えたくはありませんでした」。

“違い”を直視し、受容し合い、
アイデンティティを築く社会を

低身長症のリア&ジョセフ夫妻。夫のジョセフは大学准教授を務めている。夫婦の願いは出産して低身長症の子どもを授かることだが… (C)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

インタビューした日は、アメリカの中間選挙が開票され、上院は共和党、下院は民主党が過半数を獲得した大勢が判明しつつあった。本作のクランクインはオバマ大統領で、クランクアップはトランプ大統領だった。多様性を認め合うアメリカ社会が、アメリカンファーストを謳い、融和から分断への歩みに変化しつつある。その感想を聞くと、
「いまのアメリカの情況には、心配というよりも絶望感のような感情を抱いています。大変な怒りや権力という暴力さえも非常に大きな形で表現されていて、とても恥ずかしい思いも感じている。ただ、今日の中間選挙の結果を見ていて、敗戦だとは思いません。まだまだ闘いは続くと考えています。
また、トランプ大統領だけがこの情況を起こしたとも思っていません。単純に、今まであった種が具現化したというか、それを表現しているのがトランプ氏なのだろうと思います。
アメリカは白人の社会だったかもしれませんが、今はそうではありません。アメリカという国は、本当にいろいろな人種がいるなかで、何とかして共生していかなければまらない。白人だけの国に戻るということはあり得ないですから、利害がどうなるか分からないけれども、それを見つけなければならないのです」。

障害を抱えた子どもが生まれたのは、自分にどこか過失があったからではないかと自らを責める母親たち。だが、自分の子どもを直視し、受容して、愛情を傾けていくとき、その子自身のアイデンティティが築かれていることに目が開かれていく。さまざまな親子に固有な幸せな風景が描かれている。障害や問題を直視し、障害を受容し合い、アイデンティティを築ことの大切さを認め合う多様性豊かな社会を願う。本作のメッセージは、多様性を拒否するかのような政情によって変化しつつある情況に対しても、メッセージ性を持たざるを得なくなったドキュメンタリーともいえる。

監督:レイチェル・ドレッツィン 2018年/アメリカ/93分/ドキュメンタリー/原題:Far from the Tree 配給:ロングライド 2018年11月17日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
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