(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

“子は鎹(かすがい)”といわれ両親のケンカや離婚の危機を繋ぎ止めたのは、昔の話か。離婚が身近な問題になっている現代。父親のDV(ドメスティック・バイオレンス)によって離婚した両親。11歳の少年の親権をめぐる争いを、心が揺れ動く少年の目を通して描いていく心理サスペンスドラマ。子どもの親権を父母の双方がもつ共同親権制度のフランスを舞台にしているドラマだが、親権制度の見直しが取り上げられつつある日本でも結婚のこと、家族のことを真摯に問題提起している。

【あらすじ】
裁判所の調停室に判事と判事補が入ってきた。妻ミリアム(レア・ドリュッケール)は夫アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)のDVを理由に離婚を申し立てている。子どもは二人。大学生で18歳の長女ジョセフィーヌ(マティルド・オネブ)は親権の判断を大人になるまで猶予されるが、11歳のジュリアンの親権について母ミリアムは単独親権を求め、父アントワーヌは共同親権を求めて争われている。

裁判官判事が、ジュリアンの陳述書を読み上げる。「僕も姉さんも“あの男”が嫌いです。週末の面会を強要しないでください。二度と会いたくありません」と、父親を“あの男”と呼ぶジュリアン。アントワーヌは、ミリアムが何かを吹き込んでいるからだと抗議し、ミリアムはジョセフィーヌへの暴力証拠として学校の診断書を提出。3年前のもので医師ではなく体育教師が書いたものだと互いの弁護士の論戦が発展する。裁判官は、どちらかが虚偽を伸べているのではないかと訝(いぶか)る。

裁判所の判決が郵送されてきた。子ども(男の子)には父親が必要だというアントワーヌの主張が効いたのか、ミリアムも子どもたちも望んではいなかった共同親権が認められ、ジュリアンは土曜11時から日曜夕方までアントワーヌと過ごさなければならなくなった。

ジュリアンの親権をめぐって裁判官に互いの意見を主張するミリアムとアントワーヌ (C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

面会日にはアントワーヌが迎えに来る。父親であるのにアントワーヌの傍では緊張を隠せないジュリアン。アントワーヌの両親とは普通に会話できるが、アントワーヌには何も話せない。アントワーヌは、しきりにミリアムの電話番号をジュリアンに尋ねるが、必死に母ミリアムを守るジュリアン。アントワーヌから逃れるため母子三人は、住居を引っ越すが、移転先も必死に隠すジュリアン。だが、ひょんなことから開発地域のアパートメントに引っ越したことがばれてしまう。アントワーヌは、ジュリアンを責め立てついに部屋に案内させる…。

【見どころ・エピソード】
離婚問題に揺れるヒューマンドラマだが、DVから立ち直り家族との生活を再び取り戻したいと投げっているアントワーヌを怖れるジュリアン。過去の暴力シーンは描かれないが、母子三人が、その恐怖感を共有している姿がサスペンスフルに展開し、ラストでは衝撃の結末を見せる。
BGM無しの演出と構成は、ジュリアンの緊張した心理情況を物音や映像で印象強く描いていく。DVから立ち直ろうとしているアントワーヌの家族を失いつつある孤立感。アントワーヌの暴力から逃れ、子どもたちを護る新たな暮らしを求めるミリアム。誕生日が過ぎたら早くボーイフレンドと結婚して自立した生活をしたいと考えているジョセフィーヌ。ジュリアンの観ている現実、心の揺らぎをとおして観る者をそれぞれの立場に感情移入して家族の在り方を考えさせようとする構成がすばらしい。ラストシークエンスは、社会もわたしたち一人ひとりもこの問題については傍観者ではないことを強く迫ってくる。 【遠山清一】

監督・脚本:グザヴィエ・ルグラン 2017年/フランス/93分/原題:Jusqu’a la garde 配給:アンプラグド 2019年1月25日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト https://julien-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/unpfilm.inc/

*AWARD*
2017年:第74回ベネチア国際映画祭コンペティション部門最優秀監督賞(銀獅子賞)受賞。グラスゴー国際映画祭観客賞受賞。第65回サン・セバスチャン国際映画祭観客賞受賞。第28回パームスプリングス国際映画祭監督賞受賞。マイアミ映画賞脚本賞受賞。 2018年:フランス映画祭上映作品(上映時タイトル:CUSTODY/カストディ Jusqu‘à la Garde)。