2019年03月10日号08面

 スポーツの試合でチームを応援し、スタンドの観客を盛り上げるチアリーダー。中でも、アメリカのプロアメリカンフットボールリーグNFLのチアリーダーは、その華やかさ、ダンスの素晴らしさで、全米少女の憧れの的だ。オーディションの競争率は十倍を超える。近年日本人女性も活躍するようになってきたが、それでも狭き門は変わらない。そのNFLテネシー・タイタンズのチアリーダーとして2017年からSAYURIの愛称で活動する曽我小百合さん。華やかな世界に飛び込んで彼女が知ったのは、アメリカ文化の懐の深さと、それを支える精神性、聖書の世界だった。

試合前にチームで“お祈り”

信仰が生活に根付いていた

写真=NFLの試合が行われる球場でパフォーマンス

 SAYURIさんは東京生まれ。高校大学と日大で学び、アメフト部でチアリーダーをしていた。「もともとスポーツは好きで、3歳の時からクラシックバレエを習っていたのでダンスも好きで、人を応援することも好きで。“チア”は全部できますよね」。卒業後も管理栄養士として働きながら、日産、富士通など実業団のチームで“チア”を続けていた。その最高峰であるNFLにはずっと憧れていて、そこでチアリーダーとなるのは長年の夢だったと言う。

 10年かけて初めてその夢に挑戦することになるが、アメリカでオーディション前の準備クラスに参加していた時、練習中にけがをしてしまう。帰国して病院で受けた診断は、膝の靭帯(じんたい)断裂。すぐに手術をしたものの、その後はリハビリが必要だった。「1年間くらい踊れませんでした。でも、踊れなかったことで、自分がどれだけダンスと“チア”が好きなのかを再確認できました」

 2年後の再挑戦で合格。応募者は全米だけでなく世界各国から集まっていた。「一次二次の実技試験を経て面接があり、そのあと最終選考です。特に面接では、技術ではなく、自分の内面、人間性を伝えなければいけません。英語の苦手な私は、自分の気持ちを手紙に書いたり、絵も描いたり、経歴や今まで出会った人の話をするのに写真も使ったり。内容はともかく、そうやって取り組む姿勢とか将来性とかを評価してもらえたのかもしれません」

 チームに参加し、キリスト教が当たり前の世界に驚いたと言う。「ほとんどがクリスチャンです。日本でもやっていたように、試合の前には円陣を組んで気持ちを集中させるのですが、それがお祈りなんです。チームのあるテネシー州が、いわゆる“バイブルベルト”と呼ばれるような土地柄なのもあるのかもしれませんが。ディレクターは一人ひとりの個性を尊重して大事にしてくれますし、チームメートはみんなフレンドリーですごく温かいんです。何か困っていると、必ず助けてくれます。日本から来て友達もいなかった私に、みんな家族のように接してくれました。彼女たちを見ていると、アメリカの社会でチアリーダーが女性の“ロールモデル(お手本)”って呼ばれることがよく分かるんです。知的で、自立心があって、社会活動にも積極的です。私にあれだけ親切にしてくれても、何も見返りを求めません。信仰が生活の中に根付いていると言うか、本物だなって思いました」

「あの神様に私も愛されたい」

自分から心のドアを開けた

 英語の勉強が目的で教会に通うようになったが、そこでも「見返りを求めない、親切な人たち」と出会う。「なんでこの人たちはこれほど…?」と不思議に思っていたが、バイブルクラスにも参加するようになるうちに「この人たちは神様から愛されていることを知っている。だから人を愛せるんだ」ということに気付いた。「その神様を知りたい、私も愛されたいと、そう思ったんです」。小学生の時に教会学校に通っていた。三軒茶屋にあった同級生の家が教会だった。「子どもの頃から神様がいることは信じていました。でもそれ以上に神様を知ろうともせず、まして愛することもなかった。きっと神様はずっとドアの外に立って、待っていたのだと思います」。そのことに気付き、自分から「ドアを開ける」決心をした。

 神様を知ってから、弱い自分を認め、受け入れられるようになったと語る。これからの目標は、まず4月のオーディションに合格すること。NFLのチアリーダーは1年契約だ。神様が自分に与えてくれた“チア”のスキルやスピリットを伝えるワークショップもできると話す。「でも、いちばんの理想は、ユニフォームを着ているときだけでなく、普段の生活でも、周りの誰かのチアリーダーであること。そうなりたいですね」

 パフォーマンスの激しさとは裏腹におっとりと話すSAYURIさんだったが、その言葉には確かな意志が感じられた。