2019年03月10日号

写真=朗読劇「老人と蛙」を実演

 「放射能や原発の問題について、印象だけではなく、しっかり知識を得て判断できるようになろう」という趣旨で継続している福島県キリスト教連絡会放射能対策室の「放射能問題学習会」が、少しずつ広がりを見せている。

 1〜2か月に1回の頻度で県内を中心とした牧師、信徒らが毎回10人以上出席。遠方からはスカイプを利用して参加している。

 2月26日の第29回学習会には、県内ほか、宮城県、東京からも駆けつけ、17人が参加。県外避難経験のある子育て世代の母親や専門家らも集った。

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 毎回担当者が書籍の内容をまとめて発表し、意見交換をする。今回は放射能、原発問題の全体像を分かりやすくまとめた2冊について2人が報告した。

 栗原清一郎さん(福島いずみルーテル教会役員)は、山本義隆著『福島の原発事故をめぐって—いくつか学び考えたこと』。著者の山本氏は、元々物理学の研究者だったが、その後、在野で科学思想史などの著作を多数刊行している。同書は、震災直後に刊行して、科学技術の思想・政治的な展開とともに、原発の技術的な未熟さ、「原子力ムラ」の構造などをまとめた。栗原さんは「同書は、非常にコンパクトな分量でありながら、私たちが問題にしてきたことがほぼ書かれている。過去の政権や、原発技術者の発言などもしっかり引用し、発見があった」と述べた。

 続いて報告したのは高野望さん(ふくしまHOPEプロジェクト コーディネーター、ミッション東北・郡山キリスト福音教会伝道師)。俳優、作家、政治家など多数の肩書きをもつ中村敦夫著『朗読劇「線量計が鳴る」』。同書は原発事故ですべてを失った元作業員老人が語る物語の中で被災や原発事故の実態、背景、放射能問題などが提示される。

   「正直、今までの学習会では、内容を難しく感じていたが、この本を読んで全体像をつかむことができた」と言う。「線量計が鳴る」は朗読に2時間弱かかる作品だが、その元になった短編劇「老人と蛙」を高野さんが実演した。衣装や小道具もそろえ、方言による抑揚ある語り口に参加者たちは引き込まれた。

 同対策室室長の岸田誠一郎さん(ミッション東北・福島聖書教会牧師)は「いつもの学習会では、数字やグラフが多くなりがちだが、劇ならば入りやすいと思い、この本を薦めた」と言う。

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 「原発事故後福島では放射能に関して安全論、危険論の両極端に分かれた。これは異常なこと。真実はもっと灰色のところにあるはず。それを分かるためには知識がいる。地道に学んで意見をもてるようにしたい。事故直後、信徒の避難に関して判断を迷った。牧師だからといって、知識をもたないでいいのではない」と同学習会を提案した動機を木田惠嗣さん(郡山キリスト福音教会牧師)は語った。

 「安全論の大合唱」という福島県内の現状において、「伝え方」が課題になっている。「福島に住む人は、さんざん悩んできた。安全に暮らしたい。だから牧師として語るとき、不安材料をもってくるのかと反発も出るかもしれない。実際そのような経験をした牧師もいる。葛藤をしながらです」

 栗原さんは、放射能を避けて室内で子どもたちが遊べる機会を提供するNPO法人「キッズケアパークふくしま」の理事長を務める。「客観的なデータをどれだけ知っているか。安全かどうかをお母さんたちが自分で判断できるようになってほしい。ただこういうことを上手に伝えていかないといけない。拒否反応を示す人もいるからだ」

 朗読劇に関連して「伝え方」について、学習会でも意見が出た。以下の通り。「問題を感じても声を上げるのをためらう人はたくさんいる。文化や芸術ならば、そのような人々に手を差し伸べられるのでは」、「原発問題のドキュメンタリー映画などでも、来場者はどうしても年齢層が高い。『まだ気にしているの』という風当りの強さを感じる」「『線量計が鳴る』をむしろ県外で、問題意識の裾野を広げるために用いてはどうか。地域ではまず出会った人との関係性の中で、やっていくとよいのでは。人によって表に出せる人、出せない人がいる。対話しながら出会っていきたい」