3月17日号紙面:「捨てられた」という嘆き を主はさえぎる 福島で3・11記念集会 放射能問題講演
写真=福島市内の住宅街でも除染作業は続けられている。特に雨水がたまる側溝や塀際は放射線量を計ると高い値が出る(2018年8月、岸田氏撮影)
東日本大震災から8年。被災各地で記念集会が開かれている。救援拠点だった須賀川シオンの丘(福島県須賀川市)では3月5日、福島県キリスト教連絡会(FCC)主催3・11記念集会が開かれ、放射能汚染問題について記念講演があった。県内のほか支援に関わった県外の教会関係者らも集まった。
講演ではFCCの取り組みの一つ「放射能対策室」の岸田誠一郎室長(ミッション東北・福島聖書教会牧師)が、「放射能汚染の現実と向き合って」と題し、大阪・岸和田の教会を辞し福島に来て5年の活動や、現状と今後の課題を述べた。 岸田氏は学生時代、核や原発の問題に関心を持った。1986年にチェルノブイリ原発事故が、2011年に福島第一原発事故が起き、寄り添って支援したいと福島へ移り住んだ。
放射能汚染の影響について危機感と楽観論がある中で、FCC放射能対策室は正確なデータに基づく情報を提供しようと空間線量や食品の計測を行い、放射能問題学習会を続けている。また私信「福島で思うこと」を発行して県外に発信し、高汚染地帯などを案内してきた。
除染によって空間線量は下がった一方、雨水がたまる建物際などホットスポットが福島市内でも残っている。そうした正確なデータに基づいて危険を避けることが重要だという。
5年の変化について岸田氏は、当初感じた緊張感が今は消え失せたと感じている。福島は「安全だ」「安全とは言えない」と理解が二つの立場に分かれ、より深い分断が生じている現状を憂慮。そうしたなか、流れに抗(あらが)う必要を強調した。
「主の正義・公正を保つために、私たちは原子力行政や原発、国のあり方に黙っていてはいけない。感情的にではなく、知識に基づき現実を示して抵抗することが必要です」
また今後について、関心を持ち続けるよう訴えた。「情報を伝え、今の状態を共有することに努力を惜しんではいけない。きちんと伝えれば受け止め考えてくれる。福島の現状は発信しないとわからない」
この5年に県内で3人の牧師が亡くなり、閉鎖された教会もある。岸田氏は最近、福島宣教の難しさを考えている。教会の存続に関わる問題をどうするべきか、日本全体で考えてほしいと願う。
福島に来る前年、視察に訪れた沿岸部で漁師が「私たちは捨てられた。国は私たちが死ぬのを待っている」と言うのを聞いた。それに対し「あなたを忘れない」というイザヤ書49・15の神の約束を示された。「国は人格をふさわしく扱っていると思わない。しかし、捨てられたという嘆きを神様はさえぎる」。そして「いつもあなたがたとともにいます」(マタイ28・20)という約束、主と出会うことにこそ希望があると締めくくった。
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講演後、FCCが取り組む各分野から報告し、祈り合った。親子の保養のための「ふくしまHOPEキャンプ」は経済的な理由などから3月で終了。キャンプは分断の中で家族が一つになれる機会でもあったと言い、木田恵嗣氏(ミッション東北・郡山福音教会牧師)は「形を変えて年1回でもキャンプができれば」と願っている。
また、仮設住宅はほぼ閉鎖されたが、後藤一子氏は相馬地区で被災者訪問を続けている。今後は復興住宅に移り住んだ人たちへのケアが課題という。高橋拓男氏(ミッション東北・会津聖書教会牧師)は、会津若松市から大熊町へ帰還する人たちを世話している。住吉英治氏(同盟基督・勿来キリスト福音教会牧師)は、住民が帰還しつつある富岡町での教会設立を準備中だ。【根田祥一】