『打ち捨てられた者の「憲法」』齊藤小百合著

『現場報告“子ども食堂”これまで、これから』与野輝・茅野志穂共著 

各いのちのことば社、972円税込 四六版

 目まぐるしい社会の変化の中で、私たちはどのように情報を得て吟味すべきか。流動的、断片的なニュースだけでは捉え切れないものもある。そのようなとき役立つのが一定の分量の入門書だ。

 キリスト教の世界観に立ち、時事的、具体的なテーマをコンパクトに紹介する新たなブックレットシリーズ「カイロスブックス」が、いのちのことば社から刊行された。

 「カイロス」はギリシア語で「決定的な時」を表す。特に新約聖書では、「神が目的のうちに定められた時」を意味する。「この日本で、今の『時』を生きるキリスト者として、教会、社会、生活、教育、福祉の現場で起こっている現実を、キリスト教的な世界観・歴史観の視点から問い続ける」ことが目的だ。

 同社では1997年から「二十一世紀ブックレット」シリーズにより、歴史、平和、福祉、教育などのテーマを紹介してきた。同出版部は「カイロスブックスは、『二十一世紀ブックレット』の方針を継承しつつ、さらに生活に密着した内容を意識して、紹介していきたい」と語る。刊行のことばでは、「世界の諸問題について、教会として光をあて、『教会のこと』『社会のこと』ではなく、自らの生活に、教会に、そして生き方までに深く関わってくることとして捉えたい」とある。サイズもコンパクトに、値段も千円以内に抑え、手に取りやすくした。

 昨年10月には、朝岡勝著『剣を鋤に、槍を鎌に キリスト者として憲法を考える』が刊行し、続いて、①齊藤小百合著『打ち捨てられた者の「憲法」』、②与野輝・茅野志穂共著『現場報告“子ども食堂”これまで、これから』が刊行された。今後も『「いのち」と「愛」に着目する子育て』(岡本富郎著、6月刊行予定)など様々なジャンルの内容で刊行が続く。

 各著者はキリスト教を土台にしつつ、広く地域と関わっており、ブックレットの内容も実践の中で生まれた思索や言葉となっている。

 ①の著者は、憲法学者。研究や大学での授業とともに、市民活動「憲法カフェいが栗くん@相模原教会」で語り合った経験が生かされる。民主主義の基盤の例として、米国にわたったピューリタンが、「異質」な人たちとも共生しようとしていたことに注目する。聖書の失われた一匹の羊の例も基調となり、少数者の権利に注目して憲法と国のあり方、国家と宗教について考察していく。

 ②は子ども食堂を実践し続けた著者の視点から。当初は目に見えた困窮の解決を目指していたが、だんだんと目に見えない貧困の実態に触れていく。豊富な統計データや制度の解説とともに、利用者家族、子ども、ボランティアの声を紹介する。利用者の実態を尊重し、伝道を全面に出した運営とは別のかたちで、キリスト者の精神や地域教会という場がもつ可能性を提示する。

 カイロスには「応答すべき時」という意味もあるという。同シリーズが伝える「現場」の声を、教会、個々のキリスト者はどのように捉え、身近な領域で実践できるか考えたい。

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