著者は高名ながん病理学者である。米国アインシュタイン医科大学などでの研鑽(けんさん)ののち、日本では癌研究会癌研究所、順天堂大学教授などで病理学者として優れた活動成果を上げたがん医学研究者の一人である。また10年前から「がん哲学」の提唱者であり、一般社団法人「がん哲学外来」を創設、理事長を務めている。

 「哲学」とは、人間が作ってきた一定の「ものの考え方」で、言い換えると「概念」であるとされる。がんとは何か、人間とは何か、がん患者とは何か、生きるということはどういうことか、などについての概念をまとめる。それは、学問の専門分化が進む中で、社会に対して、専門を超えた「見通しの良さ」を提供するという役割を担っているという。

 著者のがん哲学は、具体的ながん患者と会い、お茶を飲み心を割って話し合う中で作られていく。がん患者は驚くほどの変化を遂げていくという。

 がん哲学外来で「診察」を受けた人たちが中心になり家族、友人たちが始めたのが「メディカルカフェ」という集まりで、今では全国で150か所を超える病院や教会、寺院、公共施設などで開催されているという。

 本書は著者の10冊目の本である。著者が深く敬愛し師と仰ぐ内村鑑三、新渡戸稲造、南原繁、矢内原忠雄、吉田冨三らの見識、箴言が著者にインスピレーションを与えていることが分かる。著者は「天国に行ったらこれらの先生たちとメディカルカフェを開いて一緒にお茶を飲むのが夢だ」と語っている。これらの先達の言葉が随所に著者に霊感を与えているのは事実だが、なんといっても著者の哲学の根幹をなしているのは「聖書」である。随所に引用される聖句は、非常にやさしく、時に烈風のように厳しく読む者の心を揺さぶる。

 日蓮上人が鎌倉で辻説法を始めて、多くの人の心をとらえ導いたことは知られているが、「がん哲学」はまさに樋野先生の「辻説法」である。

評・宗雪雅幸=恵泉女学園理事長

種を蒔く人になりなさい』 樋野興夫著 いのちのことば社フォレストブックス、1,404円税込、B6変型

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