カルトの勧誘に注意! 不安定な心理が狙われる マインド・コントロール研究所所長  パスカル・ズィヴィー

 昨年7月、オウム真理教の一連の事件で教団の元代表・麻原彰晃(本名・松本智津夫)と殺人の実行犯ら13人に、死刑が執行された。この事件をめぐっては、教祖からマインド・コントロールを受けた信者らが犯行に及んだとされ、注目された。キリスト教系の「異端・カルト」とされるグループでも、この「マインド・コントロール」をどう見るかは、しばしば論争の的となる。4月は、新年度を迎え、カルトの活動が活発化する時期である。マインド・コントロール研究所のパスカル・ズィヴィ所長に、カルトにおける「マインド・コントロール」について解説してもらう。

 

 — 人はなぜカルトに入会してしまうのか

 これには様々なきっかけがある。自分の生き方に対する問題、人生の悩み、家族の悩み、人間関係の悩み、社会問題に取り組もうとする姿勢など。カルトはこのような悩みのある人たちをターゲットにする。

 なぜなら、人は悩みがあるとき、心は混乱し、冷静な判断ができず、他の人からの影響を受けやすく、操作されやすいからだ。もちろん、そうならない人もいる。しかし、一般的に、人には自分の差し迫った必要を満たすと約束してくれる、興味深い集団に入ってしまう傾向がある。

 カルトはこのような人の心理状態をよく理解し、それらを利用して、マインド・コントロールを行っていく。

 — それは「うそ」から始まる

 カルトは、まず出会った人と強い信頼関係をつくり、その人が安心できる環境を整える。当然彼らは最初、自分たちの本当の正体と目的を隠しているが、クラブやコミュニティーを作り、そこに入りやすくする。自分の家を開放し、新しい人を歓迎し、口に出しても出さなくても、良い守りと愛のある家族の提供を約束する。

 カルトの本当の目的は、その人が気づかないうちに、グループの考え方や感情をその人に植え付けることである。そして、同じ考え方に染まった人をメンバーにし、熱心な活動を促す。勧誘時には自分たちの正体を隠しているので、人は勧誘されているとは思わない。その人が触れる情報をコントロールする。このようにカルトのマインド・コントロールは「ウソ」から始まる。

 悩みを聞いてくれ、感動したが…

 — クラブ活動に誘われたAさん

 大学に入学し、実家から遠く離れて一人暮らしをはじめたAさんは友だちもなく、孤独や不安を感じていた。

 ある日、キャンパスで同じ大学の学生だという2人の若い女性からバレーボールクラブの勧誘を受ける。「私たちのクラブ活動のビデオを見ませんか」。バレーボールが好きだったAさんはすぐに興味を持ち、彼女たちについて行った。そこで見たビデオは確かにクラブ活動の紹介で、Aさんは疑問を感じなかった。

 しかし、彼女を誘った2人の女性は、同じ大学の学生ではなく、あるカルトのメンバーだった。ビデオの中にはそのカルトの活動も紹介されていた。Aさんはこの事実を全く知らないままに彼女たちを信頼し、この「バレーボールクラブ」の活動に参加していった。 さらに他の女子学生を紹介され、仲間は増えていったが、彼女たちはすでにこのカルトのメンバーだった。そのメンバーたちと良い関係を持ちながら、Aさんはしだいに自分の心を開いていった。

 ある日、最初に声をかけてきた2人の女性たちが、このような質問をした。「あなたには悩みがないの?」。Aさんは泣きながら、「私は自分の母との関係が悪いから、母から離れるためにこの大学を選んだ」のだと説明した。2人はこの悩みを真面目に聞いてくれ、そのことに感動したAさんは、「私の悩みをこんな風に真面目に聞いてくれた人は初めて。幸せだ!」と感じた。

 そしてさらに2人との信頼関係は深まり、彼女たちの勧めによって、その後同じアパートで共同生活を始めた。こうしてAさんは、自分でも気がつかないうちに、彼女たちへの依存の度合いを高めていった。

 しばらくすると、彼女たちはAさんに「私たちと一緒に聖書の勉強をしない?きっと、お母さんと良い関係を持つための答えが見つかるわよ」と誘った。Aさんは何も疑わず、母との関係を回復したいがために一生懸命聖書を勉強した。

 しかし、Aさんの思いとは異なり、その勉強の本当の意図は、Aさんを「カルトメンバー」に入信させることだった。その「勉強」により、Aさんはしだいにそのカルトの思想によって自分の本来のアイデンティティー(自己観)をコントロールされ、このカルトに都合のよいアイデンティティーが作り上げられ、Aさんはメンバーになった。 そしてこのカルトのために働かされ、多大な時間を費やして新しいメンバーを勧誘し、資金集めに奔走するようになった。

 このようなカルトの心理操作の手口に見られるもう一つの重要なことは、必ず相手に恐怖心を植えつける、ということである。組織から離れたら「地獄に落ちる」、「病気になる」、「事故に遭う」、「障害児を産む」、「身近な人が死ぬ」など。カルトのメンバーたちは、その思想を信じれば信じるほど恐怖心が増し、それにより判断力が奪われるので、物事の冷静な判断ができなくなる。その恐怖心から、彼らはカルトグループから離れられなくなり、そのグループに頼るしかなくなってしまうのである。

 

 「現実にあり得ないこと」要注意

— 自分自身を守るために

 日本には、宗教的・政治的・経済的カルト、心理療法のカルト、ニューエイジ由来のものなど、相当な数のカルトが存在するが、人をだまし、マインド・コントロールするための方法はよく似ている。人がカルトの罠(わな)に陥る最大の理由は、カルトとこれらのマインド・コントロールについての知識を持っていないからである。それがどのようなものであり、どのように行われているかを学ぶ必要がある。関連の書籍や記事を読み、機会があれば、カルトとマインド・コントロールに関する勉強会に参加するのも有益である。

 また、具体的に次のことを勧めたい。

 ①脱会した元カルトメンバーの話を聞く。

 ②初対面の人からの電話や訪問には基本的に応じない。

 ③初対面の人に住所、連絡先などを教えない。

 ④むやみに知らないグループの集会、勉強会、サークルに参加しない。

 ⑤自分の価値観を育てる。

 ⑥自分の個性を大切にする。

 ⑦自分を見失わないようにする。

 誰でもマインド・コントロールされることはありうるし、カルトに入会する可能性がある。それを自覚して、カルトから自分自身を守るために「NO」ということ。友だちや優しい先輩から誘われたとしても、紹介されたグループやサークルに対して疑いがあったら、勇気を出して断ること。

 最後に脱会した元カルトメンバーの言葉を紹介する。「あなたがそれまで見たこともないほど感じのいい人々に会い、それまで考えられなかったようないい人たちのグループに紹介され、そのリーダーがそれまで会ったこともないような、霊的で、やさしく、情け深くて理解がある人物だったら、そしてそのグループが、あなたがとても無理だと思っていた希望をかなえてくれそうで、すべてが現実で考えられないほど素晴らしかったら—多分それは現実にはあり得ないことなのです。今まで続けてきた勉強や抱いていた希望、志を捨ててはいけません」

 日本社会にはカルトというものが存在していて、自分自身や身近な人が騙(だま)される可能性があるということを、頭の片隅に忘れずに置いておいてほしいと思う。