「大切な存在」伝えて20年 絵本『たいせつなきみ』を日本で初めて邦訳・紹介した翻訳家 ホーバード・豊子さん

絵本『たいせつなきみ』(いのちのことば社フォレストブックス)が邦訳出版されて、今年20周年を迎える。「あなたは大切な存在だ」と語りかける本書は、現在世界31言語に翻訳され、世界中の子どもたちはもちろん、大人の心もとらえてきた名作だ。著者はアメリカのマックス・ルケード牧師、芸術性豊かな絵の作者はメキシコ出身のイラストレーター、セルジオ・マルティネス氏。シリーズ化されて、アメリカで約1,600万部のベストセラーとなっている。日本では学校の推薦図書にも指定される、ロングセラー絵本の一冊になった。本書を初めて日本に紹介したのが、クリスチャン翻訳家のホーバード・豊子さんだ。アメリカのキリスト教書店で本書と出会い「ここで語られている神様の深いメッセージを、ぜひ日本の人々にも紹介したい」と、翻訳したことがスタートとなった。【藤原とみこ】

世代を超えて読み継がれるロングセラー

ホーバードさんは最近「『たいせつなきみ』を読んで育ちました」という20代のクリスチャン女性と出会った。
「ああ、そんなに年月が経ったのだという感動と共に、神様がこの本を用いてくださったのだと、心から感謝しました。お母さんに読んでもらった子どもたちが、今我が子に読み聞かせている。読んだお母さんが感動して、お友達に紹介して、さらに輪が広がっている。この本にはそういう力があるのだと、改めて思いました」
『たいせつなきみ』は、木彫りの小人パンチネロが主人公の物語。何をやってもさえないパンチネロは、仲間から文字通り「だめ」のレッテルを貼られ、落ち込んでいた。彫刻家のエリは、そんなパンチネロにやさしく語りかける。「みんながどう思うかなんてたいしたことじゃないんだ」。「わたしはおまえのことをとてもたいせつに思っている」。
そのエリこそパンチネロの「造り主」。「私の目にはあなたは高価で尊い」(イザヤ43・4)という愛のメッセージが、幻想的な味わいのある絵と共に語られる。
邦訳版『たいせつなきみ』は、2018年に累計27万部を売り上げた。ホーバードさんはこれまで本書も含め16冊の児童書や、共訳本を手掛けている。今年4月からスタートしたいのちのことば社の「たいせつなきみブッククラブ」は、毎月1冊聖書をテーマにした名作絵本を中心に配本する「こどもの心を育てる」新企画だ。このラインナップには、ホーバードさんの訳本も含まれている。紙芝居など児童伝道のツールの翻訳にも携わり、絵本の読み聞かせも行う、伝道に意欲を燃やすクリスチャン翻訳家だ。
ホーバードさんは「神様はご自分の愛を人々にお示しになるために、私のような拙ない者をも用いられる、恵みと憐れみに満ちたお方です。この絵本との出会いには、運命のめぐりあわせのような不思議なものを感じています。すべてが偶然ではなく、ひとつひとつが神様のご計画のうちに備えられ、整えられ、成し遂げられたのだと思います」と、振り返る。

「神様の愛を表現し伝えたい」あふれる思い翻訳につながる

信仰を持ったのは、アメリカ人の夫ジョンさんとの出会いがきっかけになる。それまではキリスト教とは無縁だったが「何が本物か」を求め続けていた子どもだった。本好きで英語好きの少女時代を経て、1994年、ジョンさんとの結婚を前に洗礼を受けた。アメリカの教会で、人種や国籍を超えて互いに親しみ、生き生きと神に仕えるクリスチャンたちに心動かされた。
「私も神様のために何かしたい、神様の愛を何かの形で表現し、伝えたいという願いが湧き起こりました。そんなときに書店で手に取ったのが『たいせつなきみ』、原題『You Are Special』でした。ジョンの趣味が彫刻でしたので、深みのある色合いの表紙の彫刻刀に目を奪われました。読み終えると、心は温かな感動で満たされて、涙がこみ上げてきました。このお話が語っている確かな神様の愛のメッセージを、ぜひ日本の方々に紹介したいという思いが与えられたのです」
深い感動に突き動かされるように翻訳した。原文を日本語で正確に伝えるためには、むしろ日本語力が問われる作業だった。訳しながら、改めて自分自身が励まされていった。その感動を多くの人とシェアしたいという思いが募った。出版されると幅広い世代から反響が伝わって来た。日本では大人からの声が大きいくらいだった。
「今、人と人との関係が希薄になり、人間性が弱くなっています。子どもたちもそう。それは日本もアメリカも同じです。時代が変わっても、神様のメッセージは変わりません。むしろ今こそ誰もが神様からの語りかけを必要としている。この絵本が時代を超えて読み継がれることを願っています」