千夜一夜座 光の書斎から「帰りこぬ風」10月公演 「愛するとは何か」問う

東京・練馬区、豊島区を中心に、演劇や語りの会、朗読教室、各種ボランティア活動を続けている劇団「千夜一夜座」は10月18日から20日まで、三浦綾子原作の『帰りこぬ風』を舞台化した「光の書斎から『帰りこぬ風』」を、東京・練馬区栄町の聖協団・練馬教会 練馬グレースチャペルで公演する。脚本は座長の田中千寿江さん、演出は「office force」の奥嶋広太さん。
◇  ◆  ◇
『帰りこぬ風』は、主人公の西原千香子が、恋愛に対して悩み葛藤しながらも、真実に生きるとは何かを求め、成長していくストーリーで、日記形式で書かれている作品だ。
看護師の千香子は、同じ病院に勤める青年医師・杉井田に心を引かれ、関係を持ってしまう。だが、患者で兄のように慕う広川の「一生に一度も転んだことのない人はいない」「人間はすべて弱さと過ちから造られている。われわれの愚かさを許し合おう」という言葉に希望の光を見つける。タイトルは「また神は、彼らがただ肉であって、過ぎ去れば再び帰りこぬ風であることを思い出された」(詩篇78・38、口語訳)から取られている。
今回、この作品を舞台に選んだ理由について、田中さんはこう語る。「『帰りこぬ風』を読んだときに、『ああ、ここには嘘がない』と。決して綺麗ごとでは済まない人間の姿から目を背けずに描かれた作品だからこそ、その闇の中に射すかすかな真実の光に胸を揺さぶられました」
田中さんは最初と最後に登場する三浦綾子と、看護婦の役を演ずるが、今回は青年座、俳優座の若者らが主役を演ずる。
千香子役は青年座の田邉稚菜さん。「千香子は純粋な子で、いろんなことに振り回されながらも、本当の自分とは何かをいつも求めている」と、役の印象を語る。
同じく、杉井田と親密な関係になる入院患者の栗巻加奈子役は、俳優座の髙宮千尋さん。歪んだ形で母親の愛を求める影のある女性の役だが、「生まれ育った環境は複雑だが、純粋に愛を求めるところは千香子と一緒で、そこが似ている。愛と淋しさを抱えた彼女の心の叫びを演技で出していきたい」と話す。田邉さんも「2人はしゃべり方、アプローチの仕方が全然違うけれど、互いにまだ青く未熟であるがゆえに、共感しあえる部分もある」と共通点に触れる。
小さい頃、カトリックの幼稚園に通っていたと言う田邉さんと髙宮さん。今、千香子と加奈子をどう演ずればいいか、2人で話し合いながら役作りに励んでいる。
この作品で重要な役割を果たす、患者の広川役を務めるのは、青年座の小磯聡一朗さん。「千寿江さんの先輩が青年座の製作部におり、その先輩を通じて声がかかった」という小磯さんは、「三浦綾子作品は初めて。でも、人の思いが出る温かい作品は結構好き。この作品は見た人がほっとするというか、持って帰ってもらえる心の温かさがいいと思いました」
田中さんは、「小磯さんは、広川さんにイメージがピッタリ」と一押しだ。小磯さんは「結構、重要な役なのでドキドキしている。座長は思いが強い方で、『ここはこういう気持ちなのよ』とはっきり言ってくれるので、気持ちも込めやすい。演技も、本番直前まで掘り下げていきたい」と抱負を語った。
チケット予約状況は、19日午後7時からの公演が満席となったため、急きょ同日午後3時30分から追加公演を決定。「早めの予約を」と願う。
開演日時は18日午後2時30分〜、7時〜、19日午後3時30分〜、7時〜、20日午後3時30分〜、6時30分〜。料金一般2千円。障害者手帳を持つ人千円(付添一人500円)。全席自由。問い合わせはTel070・5456・0840(午前7時〜午後9時)。URL https://www.senyaichiyaza.com/【中田 朗】