「聴くドラマ聖書」 迫真の演技で聖書の世界を忠実に再現 11月に公式リリース 「一つの言葉」が絶望から救った 豪華キャスト 細部までプロのこだわり

ドラマ仕立ての聖書本文が、スマホのアプリで、完全無料で聴ける「聴くドラマ聖書」が、本格始動を前に早くも話題を呼んでいる。9月30日にリリースされたテスト版は1日で4千ダウンロードを数えた。聖書66巻を一字一句忠実にアプリ化するのに起用したキャストは総勢150人、総配役数千300以上が、旧新約合わせて127時間の「聖書」に登場する。11月18日の公式リリースを前に、この事業を日本で手がけた「一般財団法人日本G&M文化財団」理事長の文俸柱(ムン・ボンジュ)氏とコンサルタントとしてコンテンツ開発を手がけた内野聖子(まさこ)氏に話を聞いた。

ーこの事業をまずアメリカで始めた「Grace and Mercy Foundation」の創設者である、ビル・ファンさんについて教えてください。
文 彼は今50代後半、韓国系のアメリカ人です。両親がともに牧師でした。UCLAを卒業し、カーネギーメロン大学でMBAを取得してのち、ニューヨークのウォール街で成功した人です。中国・日本・韓国に投資して莫大な利益をあげました。韓国人として、ウォール街でいちばん成功した人と言っていいと思います。当時私はニューヨークで韓国総領事をしていましたが、韓国から来る金融関係、証券関係の会社のトップは、みんな彼に会いたくて、私に面会のアレンジを求めてきましたが、それでも会うのは難しかったです。
ーそのいわば「億万長者」が、なぜ聖書事業を始めたのでしょうか。
文 その時彼は40代半ばだったと思いますが、ニューヨーク、マンハッタンにある世界の金融の中心地であるウォール街で、クリスチャンとして、絶望を覚えるほどに葛藤していました。そんなある日、車を運転している時に、ドラマ聖書が耳に入ってきたのです。「The Word of Promise」という、ハリウッドが制作した一流の作品で、今でもあります。それを聞きながら、一つの言葉が心に刺さり、そこから彼は立ち上がることができました。そこで彼は神様の前に決断します。「自分のような絶望している人をみことばによって立ち上がらせるために、稼いだお金を神の働きのために捧げます」と。もちろん彼はクリスチャンですから、それまで聖書にたくさん触れていました。でも読み続けることができずに、実際読んでいなかった。きっと多くのクリスチャンも自分と同じ理由で聖書を読めないのだろう。ならば誰もが耳で聖書を聞くことができるようにしたらどうか、と彼は考えました。それがきっかけで、約10年前にアメリカで財団を設立しました。続いて3年後には韓国にも設立、財団としては初めての韓国語によるオリジナル制作の無料ドラマバイブルをリリースしました。

ー韓国語の次に日本語版が作られたのはなぜでしょうか。
文 最初は中国版を作ろうと思っていたようです。3年前でしたが、たまたま彼は家族と日本に旅行に来ていました。そして私に突然電話がかかってきたのです。私はその時、東京オンヌリキリスト教会の主任牧師でした。確かにニューヨークにいた時に、韓国総領事として彼と接触はありましたが、それほど親しかったわけではありません。どこかで私が日本で牧師をしていることを聞いたのでしょうか。食事をしながら日本の宣教状況を話しました。クリスチャンの人口が1%にも満たないことなどをね。ニューヨークで会っていた頃の彼は、いかにも成功したビジネスマン、という感じしかしなかったのですが、この時の印象は昔とずいぶん違っていました。「日本は先進国なのに、福音宣教は遅れていることがわかり、びっくりした」と言っていました。それで、中国ではなくて日本でやろう、と決心したようです。 2年前に電話がきて「日本でやるから手伝ってくれ」と。そしてこの財団を日本に作りました。最初に制作委員会を作り、どの翻訳聖書を使うかを決めました。ちょうど『聖書 新改訳2017』が刊行されたところでしたが、タイミングの問題以上に、『2017』がいちばん言葉が会話的で、ドラマ聖書にふさわしいだろう、と判断しました。
ー具体的な作業を進めるためには委員とともに現場の働きが必要です。
文 制作チームを委員会の下に作りました。現場の働きとしては、監修としてチームのメンバーの一人だった、内野先生の働きは大きいですね。オンヌリ教会で副牧師をしていた人です。
内野 私はお手伝いをしただけですから。本当に多くの優秀な人材を神様は集めて下さったと思います。監督は、テレビ東京で40年間プロデューサーをしていた川幡浩さん。「美の巨人」という番組の初代のプロデューサーをなさった方です。他にも、クリスチャン、ノンクリスチャンを問わず、プロの方が集まって下さいました。

ープロでもクリスチャンでない方では、霊的な部分を心配する声もあるかと思いますが。
文 信仰を持って聖書に精通している者が、録音過程を統括する必要がありましたね。それが内野先生です。役者一人ひとりに、その役柄の説明をする必要がありました。その人物の性格、聖書の背景、歴史、地理など、全ての情報をあらかじめ提供しました。録音の時は、いつも一人ひとりに私が祈って始めました。
内野 資料はあらかじめ渡していましたが、声優のみなさんは、本当によく自分で調べてくるんですよ。台本に自分の役の家系図を書いてきた人もいました。中には、ネットでいろいろ調べるうちに牧師の説教がヒットしたのでいくつか聞いてきた、とか。台本一冊一冊のものすごい量の書き込みを、神様はきっと見て下さっていると思います。「信仰のない人が読んだもの」と、つい考えてしまいますが、その声優さんの心が聞く人に伝わればいいし、心を見られる神様は、その熱心な準備を、必ずいけにえとして喜んで受け入れてくださるはずです。そのことを、一緒にやりながらすごく感じました。
声優さんからは質問も多かったです。ヨブ記のサタンをお願いしたら「サタンは何歳ですか」と聞かれました。役作りをする時に年齢を確認するようですね。「御使いは何歳ですか」と聞かれた時は、「青年ぽい御使いで」とか「少し位が高い感じ」などと工夫して伝えました。

ー川幡監督がこだわっていた部分というのは、何か感じましたか。
内野 場面の臨場感、厚さ、奥行き、みたいなものでしょうか。名前がある人物は台本にも全て名前を入れて欲しい、と言われましたし、群衆ならば一人二人でなくて、大勢が多様な声で叫んで欲しいとか。そういう細かい要求がたくさんあったので、台本を全て新しく作りました。最初は韓国語版の台本を翻訳して使う予定でしたが、それではだめだったんです。
川幡監督は、その聖書のどこが大事かということも的確に把握しておられました。イザヤ書は奥田瑛二さんでしたが、52章を録音しているときに「次は53章だから、ちゃんと彼に説明してね」と、おっしゃっていました。
内容だけでなく、もちろん音にも気を遣われました。いつも最後の完成形を思い描きながら、細部の判断をしていたようです。「全体に暗い場面なんだから、そこに暗い音楽が入ったら、もっと暗くなってしまう」とか、「ここの間をもうちょっとあけて」とエンジニアに要求したりとか。
それと音響効果ですね。これは川幡監督が「あなたが音効をやらなければ、私は監督はしない」と言って口説き落として来ていただいた方なのですが、この方は、どこに音をつけないかを考える方で、重要なところ、聞かせるべきところには、音をあまりつけないのです。レビ記には「わたしはあなたがたの神、主である」というフレーズが何回も出てきますが、そこには音をつけない。すると何回も繰り返されるこの言葉が魂に入ってくるように感じました。私はレビ記で感動して泣いたのは初めてです。この方もノンクリスチャンですが、そういうことがわかる方でした。

ー11月18日には、いよいよ公式リリースです。今後の事業展開を教えて下さい。
文 アプリは使ってもらわなければ意味がありませんから、PRS(public reading of scripture)を普及させます。初代教会のように、みんなで集まって聖書を読み聞くスタイルは、現代に重要です。ドラマ聖書の使い方を、コミュニティーに提案します。私もすでに全国の牧師会や教会に行って、アピールを始めています。このオフィスでも毎週木曜日には昼食時にスタッフが集まってやっています。盲人伝道の団体からも反響があります。気軽に使ってもらいたいですね。また、信仰書を始めとする教養書籍のオーディオブックもリリースする予定です。ドラマ聖書はアプリだけでなく、パソコンでも使えるようにしたいですね。とにかくやることはたくさんあります。

ーところで、先ほどビル・ファンさんの話で、ドラマ聖書を聞いているときに「一つの言葉が心に刺さった」と言っていましたが、それはどんな言葉だったのですか。
文 具体的にはわからないのですが、でも、聞く人一人ひとりにとっての「一つの言葉」が、この「聴くドラマ聖書」の中に、きっとあるはずです。