伝道団体シリーズ:OCC無牧ミニストリーズ 牧者のいない教会に希望の光を 前編

全国に約8千あるプロテスタント教会のうち、牧師のいない教会は300、兼牧も含めるとその数は約1千教会にのぼり、比率にして全体のおよそ13%を占める。日本全体の教勢の減衰傾向が指摘されるのにともない、無牧教会、ひいては教会閉鎖の件数増加が不安視される中、お茶の水クリスチャン・センター(村上宣道理事長)は、牧師を探している教会と奉仕の場を求めている教職者をつなぐ「OCC無牧ミニストリーズ」を展開している。そのコーディネーターを務めるのは栗﨑路(あゆみ)氏。東京基督教大学で修士論文「無牧の教会に対するサポートシステムの構築」により学位を取得し、現在幸町キリスト教会(茨城県筑西市)で奉仕する栗﨑氏に、このミニストリーが必要とされる背景、展望について聞いた。2回にわたって掲載する。

―この働きは端的に言って、牧師を探している教会と奉仕教会を探している牧師をそれぞれリスト化し、結び合せる、言わば“結婚紹介”のようなマッチングシステムだと思われます。このようなシステム構築に取り組まれた理由は何ですか。
無牧教会が増加する原因としては、「高齢化・後継者不足」、「地域格差」、「情報不足」が考えられます。この前二者に関しては、日本全体、キリスト教会全体が直面している問題であり、抜本的な解決は一朝一夕にもたらされるものではないでしょう。しかし「情報不足」に関して言えば、具体的に取り組めることはあると思います。
実際に教会が牧師を探そうとする時には、任命制の教会は別として、何らかの方法で可能性のある教職者の情報を集めようとするでしょう。今在任している牧師がいる場合にはその人を通して、教団に属している教会ならその教団に、他教会と交流があるならその牧師を通じてなどが考えられます。教団によっては、自身の団体の中に無牧教会がどれだけあり、派遣可能な働き人がどれだけいるかを随時把握し、全体を調整するシステムを持っているところもありますし、システム化はされていなくても、教団内の緩やかなつながりが各個教会に委ねられた牧師招聘を円滑に実現している事例もあります。
問題となるのは、教団に属していても牧師招聘を全く教会独自で行わなければならない場合、そしてそれ以上に、そもそも所属する団体を持たない単立教会、中でも地方にあって地域の他教会ともあまり交わりのない教会です。それらの教会は、多くの場合、赴任先を探している牧師がどれくらいいるか、どうすればコンタクトを取れるのか、といった情報を持っていません。後継者不足と言っても、現在全国には教会数を超える1万人くらいの教職者がいますし、神学校も毎年相当数の卒業生を送り出しています。そのような貴重な賜物、人材の活用という点からも、情報提供により何かできるのではないかと考えました。

 

―具体的にどのような情報を提供するのですか
登録していただく牧師には、基本的な情報に加えて、卒業した神学校、奉仕教会の履歴、ご自身が取り組んできたこと、賜物、重荷、そしてどのような教会を希望するか、地域性や神学的背景などを書いていただきます。これはもちろん、教会がどのような牧師を希望するのかに基づいて判断するためで、教会が登録する場合には、無牧になった原因、教会の特徴、どのような牧師を希望するかなどを書いてもらいます。あとは基本的に当事者同士で話し合っていただいて、ということになります。ただ、実際の牧師招聘に関して言えば、それだけでは不十分かもしれません。無牧教会の中には、そもそもどのようにして牧師を招聘するか、知識も経験もノウハウも持っていないところが少なからずあるのです。
ある牧師は、2年間近く無牧を経験した単立教会に赴任しましたが、その2年間教会は「ただ祈るだけ」だったようです。具体的になすすべを知らなかった、とも言えるでしょう。ある出会いからその教会を紹介され、これといった審査や面接もなく、ただただ歓迎されて迎え入れられたそうですが、そのことが逆に不安だったと、その牧師は言っていました。「とにかく牧師が来てくれればいい」という教会も確かにあるのです。

―だとすると、招聘後に問題が起きるケースもあるのではないでしょうか。
学位論文のために多くの牧師に話を聞きましたが、「こんなはずではなかった」という類いの声はよく聞きました。無牧の単立教会の傾向として、無牧の期間が長くなるほど、群れの指向性が内向きになる、ということは言えるかと思います。もちろん、全ての教会ではないですが。前任牧師のやり方、教えが絶対であったり、その教会の文化伝統が異常に強かったり、内部の人間関係が硬直化して外部の人間を受け入れようとしなかったり。その場合、「外部の人間」とは、新しく来た牧師さえも含むことがあるのです。
ある牧師は、受付台の位置を動かすことさえできなかったそうです。台所のやかんの位置を動かして、烈火のごとく怒られた方もいました。「私はこの教会の嫁なんです」と言った女性牧師もいました。教理的な違いが問題になる場合もあります。「前の先生はそうは言わなかった」。前任の牧師も後任の牧師も間違ったことを教えていたわけではないはずです。しかし、一人の牧師によって長年教えられてきた教会では、教理教派の違いの存在を知らなかったり、その違いを受け入れられなかったりする場合が確かにあります。

―そういうことが起こらないために、どうすればいいのでしょう。
必ず何回か事前に来てもらって説教してもらう、教会のニーズと賜物があっているか判断する、などを教会には勧めます。でも最終的には当事者同士で話し合って決めていただく以外にありません。実際招聘した結果がどうなるかはわかりませんし、教会と牧師の双方が努力しなければならないのは無論です。私たちにできるのは、出会いの場を提供することまでです。ですから、牧師さえ見つかれば問題解決、ということではないのです。(つづく)

後編(12月8日号)

 

村上宣道(お茶の水クリスチャン・センター理事長)

教会の無牧化は深刻であり、放ってはおけない切迫した課題です。 その解決は人の知恵にはよりませんが、神様のお導きを求めて祈ると同時に、積極的に取り組んでいくことが必要でしょう。無牧ミニストリーズは無牧化を防ぐための積極的な働きです。OCC(お茶の水クリスチャン・センター)は志を同じくする方々と共にこの働きを全面的に支援し、担ってまいります。無牧で苦しむ教会の一助になれば幸いです。

栗﨑氏(OCC無牧ミニストリーズコーディネーター)

幼少期から通っていた教会から一時期離れたが、20歳で受洗。大学卒業後、大阪府で4年間消防士としてレスキュー隊に勤務。人命救助から魂の救いへの召しを得て、献身。関西聖書学院卒業後、シアトル・バイブル・カレッジ(米ワシントン州)に学ぶ。2013年に幸町キリスト教会に招聘され、牧会のかたわら東京基督教大学大学院で修士号取得。レスキュー隊時代に、牧師のいない教会があることを聞き、「この召しは否めない」と思ったという。学位論文は当該サイトから読むことができる。 https://muboku.org/assets/doc/paper15109.pdf